2012 Fiscal Year Research-status Report
液膜研究分野の創生のための液体薄膜の粘弾性を直接測定する手法の開発
Project/Area Number |
23656058
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
美谷 周二朗 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (10334369)
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Keywords | 液体 / 薄膜 / 表面張力 / 粘弾性 / 測定 |
Research Abstract |
本研究は、液体薄膜の物性を研究する分野を創生するために、液体薄膜の粘弾性を測定する装置、具体的には液膜の形状変形ではなく液膜の塗布された基板の共振周波数の変化から粘弾性を測定する装置を開発することを目的としており、平成24年度の研究実施計画は、粘弾性測定に必要となる液体の密度を、基板上に数10μmほど塗り広げた液体膜を基板ごと3次元的に振動させ、3方向の共振状態から密度と粘弾性係数を分離して計測可能にするというものであった。 平成24年度に実施した研究は、研究実施計画および前年度までに実施した研究の成果をもとに、インクジェット技術を利用し基板上に付着させた微小液滴の振動解析を進めるとともに微小液滴の基板との接触角の直接観察を行った。その結果、不完全ぬれを示す液体に対しては液滴振動は表面張力を復元力とする固有振動を示すこと、完全ぬれを示す液滴の濡れ広がり速度がTanner則に従うことが確認された。また、前年度に行った超高粘性液体の表面物性絶対評価法開発に関しては、本年度はさらに開発を進め、昇温により硬化する塗料の表面張力の温度依存性や、逆に昇温により溶融するポリスチレンなどのポリマーの表面張力の温度変化の観察を行った。その結果、ポリマーではガラス転移温度付近で急激に表面張力が大きくなることが明らかとなり、従来では重要視されていなかった高粘性液体の表面張力の温度依存性が低温域では重要であることが確認された。さらに、開発した表面物性評価法において低粘度の液体に対して液滴に定常振動を与えることが出来ることを利用した粘度測定法の開発に着手した。これらの成果は当初の研究計画を上回るものであり、次年度以降に本研究を遂行する上で重要な基礎事項であり、これまで困難であった液体物性研究を可能にしたという点で学術的・産業的に大きな意義を持つものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では基板に塗布した液体膜の振動特性を3次元的に解析することで、密度と粘弾性との分離測定を達成する予定であったが、密度に関しては他の方法で十分な精度で測定できる見通しが立ったため、微小液滴の振動特性や濡れ特性と液体の表面張力や年弾性との相関を重点的に解析することとした結果、液体と基板との塗布に関する特性に関する知見を得ることが出来たため、計画以上の結果を得たといえる。さらに、実用上で重要となる塗料やポリマーに対して表面張力や粘度の温度依存性に関する新たな知見を得ることも出来た。本年度までに得られた成果は主に微小液滴に対するものであるが、これらはすぐに基板に塗布した液膜への応用が可能であることから、現在までの達成度は当初の計画以上であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究成果を踏まえ、今後の研究は当初の計画通りに液体薄膜の共振を3次元的に測定するシステムを構築し、粘性測定の精度向上を図るとともに温度や膜厚に対する振動周波数特性を検討し、システムとしての完成度を高める。液滴に対して得られた知見はすぐに液体薄膜に適用することが出来ると予想されるが、液滴にはない「膜厚」というパラメータがどのように測定に影響するかを詳しく検討することが必要であり、次年度でこれを行う。また、本年度に着手した塗料など実際の測定対象を用いた実験をさらに積み重ねることで、測定装置の有用性を学術的・産業的にアピールしてゆく。これらの研究活動を最終的にまとめ、当初の目的どおり液膜研究を学術分野として確立することを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に使用する予定の研究費は、本年度に行った研究において密度計測システムを新たに開発せず液体膜においても既存の手法を用いることで実現することが出来るという新たな知見により生じたものである。最終年度である次年度では、実際に液体薄膜の振動を観察する必要があるため、当該研究費は当初の計画の通り基板共振システムなどの装置を組み合わせ測定装置として完成するたに必要不可欠なものであり、次年度に請求する研究費の使用目的である測定システムの構築および測定データの収集に必要なものではあるが重複するものではなく、当該研究費と翌年度以降に請求する研究費を合わせて使用することで本研究の目的を達成することが可能となる。
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