2011 Fiscal Year Research-status Report
セル状構造のSMAによる高伸縮性と高発生力を有するリハビリ用人工筋肉の開発
Project/Area Number |
23656078
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡部 洋二 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (90313006)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 形状記憶合金 / セル構造 / 人工筋肉 / リハビリテーション / スマート構造 |
Research Abstract |
本研究では、障害者の指関節リハビリ用装具に適した、軽量・柔軟かつ無騒音な人工筋肉を、形状記憶合金(SMA)によって構築する。特に、SMAワイヤを加工してセル状構造にすることで、局所的な曲げ変形を分散発生させ、構造全体では軽量でありながらも、SMAの形状記憶効果(SME)によって、高い伸縮性と適度な収縮力を有した人工筋肉を設計する。 本年度は、そのSMAセル構造の様々なパラメータが、人工筋肉の特性に及ぼす影響を、有限要素解析(FEA)で評価した。その際、FEAに使用するSMAの特性を求めるため、SMAワイヤ単体での負荷除荷試験を実施した。そして、室温での応力ひずみ線図を計測し、弾塑性体に近似して各力学的特性を求めた。また、高温でも同様に計測をし、超弾性体として各特性を求めた。 本研究ではFEAに商用ソフトのLS-DYNAを使用しているが、SMEを表現する材料モデルが無いため、室温と高温での力学的特性の差から簡易的にSMEを模擬した。検討したパラメータとしては、まず、SMAワイヤの幾何形状として、山形状・ハニカム状・波形状の3種類を対象とした。その際、形状回復能力に関係する最大局所残留ひずみと、加熱により発生する回復力を比較した。その結果、ハニカム状は高発生力、波形状は高伸縮性、山形状はその中間的な性質を示した。また、幾何パラメータとして、山形状では頂点の曲げ角度・曲げ振幅・ワイヤ直径を、ハニカム状では頂点の曲率半径を検討し、それらが上記2種類の指標と相関を有することがわかった。さらに、ワイヤ同士を結合してセル形状にした場合、最大局所残留ひずみに変化が生じることもわかった。以上の結果より、SMAワイヤの幾何形状を工夫することで、人工筋肉に要求される性能に適した設計が可能であることが確認された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載の「研究実施計画」の平成23年度分において、セル状構造SMA人工筋肉の試作と、その人工筋肉構造の力学的性能評価を行うことが出来なかった。しかし、SMAワイヤ単体の力学的特性の計測は完了し、また、SMA人工筋肉構造の有限要素法による挙動解析は、超弾性効果を用いた擬似的な形状記憶効果による解析まで行うことが出来た。ただし、余裕があれば実施予定であった、形状記憶効果の理論に基づいたサブルーチンの構築までは着手できなかった。その一方で、平成24年度に実施予定であった、有限要素解析に基づいた最適なSMAセル構造の検討については、平成23年度において、十分なパラメータ・スタディを行うことが出来たと考えている。したがって、平成23年度と平成24年度とで、実施内容の順番が当初の計画と部分的に入れ替わってしまったが、実際に研究を進めてみると、今回の流れの方が研究を進めやすく、また、計画の順番が入れ替わることによって特に研究が遅れているとは感じられない。以上より、おおむね順調に進展していると思っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成23年度は、有限要素解析を中心として研究を進めてきたが、平成24年度は、平成23年度の計画と順番が入れ替わった、セル状構造SMA人工筋肉の試作を行う予定である。その際に、特殊な金型ジグや、数種類のSMAワイヤが必要となるが、これらの製作・購入が平成23年度から平成24年度に移ったため、「次年度に使用する予定の助成金」が比較的大きく発生している。 そして、SMAワイヤ人工筋肉の試作が完了したら、その人工筋肉構造の力学的性能評価を実施し、平成23年度に行った有限要素解析の結果を検証する。その後、指関節リハビリ装具に要求される伸縮率と発生力を満足できるように、平成23年度に確立した解析に基づいて、最適なSMAセル構造アクチュエータ(人工筋肉)を実際に作製する。そして、その発生力や伸縮率を定量評価し、所望の性能を満足しているか確認する。 その後、実際に指関節に装着するリハビリ用装具を試作する。その際、SMAの加熱機構としてのシート状ヒータの選択や、指に装着したときに人体に影響が出ないか温度分布の計測を行う。また、自動で指を曲げ伸ばし運動させる制御機構についての検討も実施する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度においては、実際にSMAワイヤに幾何形状を記憶させるための金型を、数種類試作する。そして、SMAワイヤも数種類購入する。また、SMAワイヤ同士を結合してセル構造にするには、当初はスポット溶接を考えていた。しかしながら、平成23年度の解析結果では、確かにセル構造にした方が最大局所残留ひずみが抑えられるというメリットがあるが、その費用対効果を考えると、接着もしくは単線ワイヤを束ねたものでも十分な可能性がある。よって、様々な接着剤等の購入も必要である。そして、平成23年度に引き続き、有限要素解析を実施するため、LS-DYNAの年間ライセンス料を計上する予定である。また、実際に指装着リハビリ装具を作製するための費用も発生し、その温度分布は熱電対を複数設置して計測する予定である。そして、最終的に得られた成果を国内と海外の学会で発表するため、その旅費や学会参加費も必要であり、さらに、学術論文として投稿するための投稿料も必要となる。
|