2011 Fiscal Year Research-status Report
咀嚼の力学に関わる上肢マルチボディダイナミクスのモデリング
Project/Area Number |
23656087
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
澁谷 陽二 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70206150)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 咬合力学 / マルチボディダイナミクス / 筋電計測システム / 有限要素法 / 咀嚼筋系 |
Research Abstract |
今年度は,咬合筋系の活動度測定システムの立ち上げを行い,時間に依存したモデリングの構築を実施した.(1)咀嚼に関わる咬合筋系の活動度の測定: 当初の研究計画において予定していた筋電計測システムの仕様をまず検討した.従来の文献から,咀嚼に関わる筋肉のうち計測可能な部位にある筋肉は限られていること.また,実測データをみると個体差が大きく,また咬筋が必ずしも主たる活動筋でないことがわかった.一方,従来より開発してきた咬合力学解析シミュレータを用いて,頭蓋形状と咬合力分布を計測し,歯列・下顎・上顎・頭蓋モデルを個体差に応じて作成した.そして,それらのモデルを用いた片噛み状態の結果と比較した.これらの検討結果から得られた注意点を勘案して,購入する計測システムの仕様(例えば,必要最小限のチャンネル数等)を決定した.また,人体に貼りつける筋電の計測センサから計測システムを介して増幅された微弱な電圧変化を,別途購入した市販のA/Dボードとパソコンに取り込むためのソフトウェアの開発を行い,ハード及びソフトの両面の準備がほぼ整った. (2)時間依存のマルチボディダイナミクスモデルにおける高速化アルゴリズムの導入: 剛性の著しく異なる領域から構成される上肢全体系を有限要素法で解析する場合,剛体に近い領域では変形が生じず,動的な特性においては特性時間が大きく異なる.したがって,すべて一律な手法で解析することは効率的でない.従来よりCraig-Bampton法という手法が広く利用されているが,2段階の解析を要すること,線形弾性問題以外への適用が困難であること,といった短所が言われている.今年度は,まず上下顎,頭蓋,頸椎・胸椎・腰椎の脊椎を含む上肢筋骨格系の解析モデルへの適用を検討するため,上記の手法を既存のモデルに組み込んだ.そして,モデル計算により制限事項に関する改良すべき点の整理を行った.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的は,下記の項目に整理できる.(1)咀嚼といった動的行為によって,人体内に生じる長距離的力学作用の及ぼす経路を明確にするため,上下顎・頭蓋そして頸椎・胸椎・腰椎といった脊椎を含む上肢全体の筋骨格系をモデル化し,その力学的な状態を解析する.(2)後天的な片噛みや先天性初期不正咬合,あるいは歯科インプラント埋入による口腔内の局所的な剛性変化に対する力学場の解析を行い,そのような噛み合わせと臨床的に示唆されている不定愁訴との関連について定量的な考察を行う.そして,(3)頭蓋の重心移動と力学的に連動する,総括的な咀嚼の運動に対するマルチボディダイナミクスを明らかにする.これらの目的に対して,(2)の定量化の観点から人体の咀嚼にかかわる筋電の計測システムを立ち上げたこと.そして,(3)のマルチボディダイナミクスのモデリングを実施するために,まずは計算の効率化アルゴリズムを導入したことから,おおむね順調に進展していると判断した.
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は年度途中で前倒し支払請求し,研究目的を達成するために効果的な仕様をもつ物品の購入を行った.そのため,研究実施に必要な物品の購入はほぼ完了し,次年度はデータの取得,モデリングの完成と一連の結果に対する考察に集中する予定である.まずは,咀嚼にかかわる筋電図の取得を行い,できれば複数の個体別データの取得を実施する.一方,モデリングに関しては,時間依存による効果を取り入れた新たなモデリングを構築し,咀嚼に関わる咬合力の時間応答と,計測される筋電の時間応答の両者を比較検討し,定量的な考察を展開する.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度研究費に未使用額があるが,研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は多少異なった.しかし,研究計画に変更はなく,前年度の研究費も含め,当初予定通りの計画を進めていく.次年度は,主に今年度に立ち上げた筋電計測システムの消耗品関係の購入と,成果の公開に要する旅費の支出に充てる予定である.
|