2011 Fiscal Year Research-status Report
作業中の筋力推定と疲労評価を実現する職場環境設計用デジタルヒューマンモデルの開発
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23656107
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
白瀬 敬一 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80171049)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 人間工学 / 筋骨格モデル / 動作解析 / 筋力推定 / 二関節筋 / 拮抗筋 / 筋疲労モデル |
Research Abstract |
本研究は,作業者に優しい無理のない作業環境を提供するための革新的評価ツールを開発することを目的としている.高齢化社会を迎えたわが国では,作業者の高齢化が進んでおり,作業者の身体的な負担が大きくなっている.そこで,作業者に優しい作業環境を提供する必要があるが,そのためには作業時の人の作業負荷や作業による疲労の影響を事前に評価する必要がある.そこで本研究では市販されているデジタルヒューマンモデルで不足している機能として,人間特有の筋肉であり,身体の制御機能に大きく関与している2関節筋や拮抗筋の働きを考慮できる筋骨格モデルを開発するとともに筋肉の疲労モデルを新たに提案して,モーションキャプチャした作業動作の解析から,作業負荷の程度や疲労の大小を予測することを目指している. 本年度の成果としては,人の下腿部に存在する代表的な9つの筋肉において,モーションキャプチャした動作から各筋の筋力を推定する手法を提案した.また,提案した手法を垂直跳びのような動的な動作に適応して,各筋に表面筋電計を取り付けて検証を行った結果,提案した手法によって推定される結果の妥当性を示した.従来の各筋の筋力推定手法では,関節トルクから各筋が発揮する筋力の総和もしくは消費エネルギーを最小とするように,各筋の筋力が求められていた.しかし,従来の手法では人は無駄な力を発揮していないという前提の下,最適化手法によって各筋の筋力が決定されるため,人の身体制御に大きく関与している2関節筋および拮抗筋の働きを考慮することができなかった.本研究で提案した手法ではこれらの人間特有の筋肉の働きを考慮することができるような筋力推定手法を提案し,有効性を示すことができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では市販されているデジタルヒューマンモデルで不足している機能として,人間特有の筋肉であり,身体の制御機能に大きく関与している2関節筋や拮抗筋の働きを考慮できる筋骨格モデルを開発するとともに筋肉の疲労モデルを新たに提案して,モーションキャプチャした作業動作の解析から,作業負荷の程度や疲労の大小を予測することを目指している.本研究の目的は大きく3点にまとめられる.1つ目は,筋骨格モデルの作成に際し,人間特有の動作生成に関わる筋肉である2関節筋および拮抗筋の働きを考慮して,新しい筋力推定法を提案することである.2つ目は,生理学的に明らかになりつつある筋線維の働きを考慮して,新しい筋肉の疲労および回復モデルを提案することである.3つ目は,これまで提案した筋骨格モデル,筋肉の疲労および回復モデルを用いて,作業者の動作から筋肉の負荷や筋肉の疲労の大小を定量的に予測し,作業性の良否を評価することである. 本年度は,主に1つ目で述べた,人間特有の筋肉であり,身体制御に大きく関与している2関節筋および拮抗筋の働きを考慮した筋力推定手法を提案し,さらに実際の動作に適応し,提案手法の有効性を示すことができた.こうした進捗状況から,達成度を決定した. 来年度は,2つ目にあげた筋肉の疲労および回復モデルを提案し,検証を行うとともに,本年度で得られた成果と組み合わせることによって,疲労の影響を評価することが可能なデジタルヒューマンモデルを開発する.特に,モーションキャプチャした作業動作の解析から疲労の大小を評価することで,作業者に優しい無理のない作業環境,つまり作業性のよい環境を設計していく上で,非常に革新的な評価ツールとなる.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,筋肉の疲労及び回復のモデルを用いた筋疲労のシミュレーションに挑戦する.筋肉の疲労モデルは,Liuらによって提案されている.この疲労モデルでは,筋肉を小さなモータユニットの集合とし,そのモータユニットが3種類の状態(待機状態,活性化状態,疲労状態)に変化すると考えている.また,待機状態から活性化状態へ,活性化状態から疲労状態へ,疲労状態から回復して活性化状態へと遷移するモータユニットの数(時間当たり)が一定であると考える.そうすると,時間の経過とともに3種類の状態にあるモータユニットの数が変化し,それぞれの状態にあるモータユニットの割合から筋肉の疲労状態や筋肉が発揮することのできる筋力を推定することができる.しかし,Liuらは筋肉の疲労により,上肢や下肢の先端出力が低下する現象の検証しか行っていない. そこで,本研究ではLiuらの疲労モデルを,上肢を構成する主要な6筋に適用する。昨年度の研究成果を利用すれば,推定される筋力の時間変化から,個々の筋肉の疲労状況を予測する事が可能となる.これによりモーションキャプチャした作業動作の解析結果から,個々の筋肉の疲労状況を評価することが可能となる.最終的には,作業負荷の大小や繰り返し作業の時間間隔,休憩の有無による疲労状況の変化を把握することで,作業者に優しい無理のない作業環境,つまり作業性のよい作業環境を設計するための評価ツールの構築を最終目標とする.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は,モーションキャプチャによる動作解析と,Liuらの疲労モデルに基づいた上肢の筋疲労モデルの構築と筋疲労のシミュレーションが,研究の中心となることから,これに使用するワークステーションを購入する。また,種々の作業動作についてモーションキャプチャを実施する実験補助,データ解析を行って筋力を推定する研究補助の謝金を見込んでいる。さらに,昨年度の研究成果を公表するための学会発表や論文投稿を予定しており,そのための国内旅費と論文の投稿料や印刷費を見込んでいる。
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Research Products
(7 results)