2011 Fiscal Year Research-status Report
微細表面構造によるダイヤモンド膜の揚力発生機構と制御
Project/Area Number |
23656113
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
三木 寛之 東北大学, 流体科学研究所, 准教授 (80325943)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | トライボロジー / 機械要素 / ダイヤモンド |
Research Abstract |
本研究は研磨ダイヤモンド膜表面の平坦部と微細な凹凸の混在により、優れた滑り特性を示す現象について定量的に評価し、摩擦が非常に小さくなる現象の機構解明を目的としている。本課題では接触と浮上の安定状態の境界領域について研究し、無潤滑摺動要素としての研磨ダイヤモンド膜が低速摺動から高速摺動の全ての領域での安定した低摩擦実現を目指している。平成23年度は研磨ダイヤモンドの流体潤滑遷移(浮上)特性の表面形状依存性評価を目的として、チャンバー内に設置した摩擦試験機を用いて研磨状態の異なるダイヤモンド膜の金属板上での浮上特性について評価した。各試験片の摺動試験には、凹凸のあるダイヤモンド膜と相手材の金属の間で安定した面接触(接触面圧)が維持されるように改良を加えたPin-on-Disk試験法を適用した。浮上特性試験には表面粗さがRa = 0.56μm(未研磨)、 0.26μm(半鏡面研磨)、0.14 μm(半鏡面研磨)の多結晶ダイヤモンド膜と接触面がRa = 0.04 μmの鏡面なるように研磨した円筒形のSUS440Cピンの組み合わせを用いた。その結果、研磨されたダイヤモンド膜とSUS440C間の摺動試験では、接触圧 5kPa以下の場合には摺動速度 1m/sec 以上の相対速度条件で2面間を流れる気体流によって発生する揚力と接触面圧が均衡を取ることによって安定した流体潤滑が発現することが分かった。一方、6 kPa以上の接触圧が加わると揚力が十分にピンを支持できず、一部で摺動面が直接接触する混合潤滑状態になることが分かった。そのために摩擦係数が高くなり、場合によっては不安定な接触状態が現れることも明らかになった。以上のことから、表面形状や摺動速度、接触面圧が摩擦特性に影響を与え低摩擦に遷移するための重要なパラメータであることを示すことが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は研磨ダイヤモンドとSUS440Cピンの摺動における潤滑状態の遷移プロセスについて検討し、接触する2面間に流れる希薄気体流によって生じる揚力について研磨ダイヤモンド膜の表面に形成されるプラトー構造が浮上効果の要因であること、ならびに相対速度と接触面圧により浮上特性が制御されることについて知見を得ることが出来た。これらの結果により平成23年度研究実施計画を概ね遂行したことから、上記達成度と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24度には潤滑状態の遷移を誘起する研磨ダイヤモンドの微細表面形状と発生する揚力、および摺動(相対)速度との相関を定量的に分析する。半鏡面状に研磨することによって得られる不規則微細形状から摩擦低減(揚力発生)効果が大きい表面形状パラメータを抽出し、研磨ダイヤモンド膜浮上のメカニズムを明らかにする。実施予定の研究項目は(1) 研磨ダイヤモンドの浮上特性の表面形状依存性評価、(2) 研磨ダイヤモンドによる摺動及び摺動性能の環境依存性評価である。具体的には、はじめに研磨ダイヤモンドの常温大気雰囲気における低摩擦摺動から超低摩擦(浮上)に至る過程の定量的評価を行う。ここでは膜表面の1次元的形状(凸凹)と2次元形状(表面テクスチャ構造)の摩擦係数の相関を明らかにする。マクロには光学顕微鏡による組織観察、ミクロには原子間力顕微鏡等による微細形状の直接観察による表面粗さ評価を実施し、膜のうねりや凸凹形状といった表面性状評価から浮上特性に直接的に影響を与える形状パラメータを抽出する。これにより膜表面の微細構造、表面の算術平均粗さの特性量を組織パラメータとして抽出する。一般に、表面に規則的な形状(テクスチャ)を持つ表面は摩擦係数が安定的に低いことが知られており、規則度を非常に小さくした不規則形状制御パラメータ(ダイヤモンド膜の凹みの分散度(表面テクスチャ構造因子))が摺動に与える影響を明らかにする。次に、雰囲気条件の異なる摺動試験を行い、浮上性能の環境依存性を評価する。ここでは、揚力をもたらす気体流の違いによる浮上特性への影響を評価する。また、計算機の援用によるモデル計算を行い、(1)の表面形状依存性を考慮した浮上メカニズムの解明を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究の実施計画に変更はなかったが、成膜条件が比較的早く確立できたため当初予算に計上した物品費が予定より少なくなった。その他経費については分析委託を予定していた装置が所内に整備されたことによるものである。本事業においては研究計画に変更の必要がないため、当該研究費は平成24年度実施の研究費として研究計画を策定している。平成24年度は海外で開催される国際会議への本事業の成果発表を2回予定しており、予算計画変更分をそのうち1回の渡航費・参加費に充当する。具体的な支出予定費目は以下の通りである。物品費(成膜用基板、原料ガス(メタン,アルゴン等)、走査電子顕微鏡用消耗品、表面研磨用消耗品、断面試料作製用消耗品、タングステンワイヤー、放電加工ワイヤー)、旅費(成果発表、調査研究、研究打合せ、資料収集)、人件費・謝金(論文校閲)、その他(会議費、通信費、論文投稿料、学会登録料、分析委託費)
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