2012 Fiscal Year Research-status Report
人工軟骨使用を目標とする新規積層型ポリビニルアルコールハイドロゲルシートの作成
Project/Area Number |
23656119
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
岩井 智昭 金沢大学, 機械工学系, 講師 (30242530)
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Keywords | ポリビニルアルコール / ハイドロゲル / リン酸三カルシウム / 積層化 / トライボロジー / 人工軟骨 |
Research Abstract |
本度は、無充てんポリビニルアルコール(PVA)ハイドロゲルとリン酸三カルシウム(α-TCP)分散PVAハイドロゲルの積層化について検討を進めた。無充てんPVAハイドロゲルは、強度は多少劣るものの低摩擦係数を示すためしゅう動面に適している。一方、α-TCP分散PVAハイドロゲルは、α-TCPが水和反応により針状のハイドロキシアパタイト(HAp)結晶となるため、摩擦係数は高くなる。しかし、HApはPVAハイドロゲルと十分に凝着することで材料の強度を上げることを明らかにした。骨との接着性を考慮し、無充てんPVAハイドロゲルを摩擦面とし、その裏面にα-TCP分散PVAゲルを積層化することを試みた。 その結果、無充てんPVAハイドロゲル、α-TCP1.5wt% 充てんPVAハイドロゲル、α-TCP3wt% 充てんPVAハイドロゲルの3層構造の積層化材料を作成した。各層の厚さは1mmとし全体の厚さは3mmである。これは、生体軟骨の厚さとほぼ同じである。積層化材料において問題となるのは界面での剥離である。本研究では新たな層を重ねる時に、先に作成した層を凍結解凍温度より高い室温にしてから積層したため、界面への霜や水分の付着は起こらず、界面での剥離を防止することができた。 この積層化PVAハイドロゲルと単体の無充てんPVAハイドロゲル、α-TCP1.5wt% 充てんPVAハイドロゲル、α-TCP3wt% 充てんPVAハイドロゲルの摩擦特性および圧縮弾性を比較した。その結果、積層化材料の摩擦係数は無充てんPVAハイドロゲルとほぼ同じであり、また、圧縮強度は無充てん材料より大きく、α-TCP1.5wt% 充てんPVAハイドロゲルとほぼ同等であることが分かった。よって、無充てんPVAハイドロゲルとα-TCP充てんPVAハイドロゲルの積層化により、それぞれの利点を合せた材料を作成することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究テーマは大きく分けて3つのステップに分けられる。ポリビニルアルコール(PVA)ハイドロゲルへのリン酸三カルシウム(α-TCP)充てんによる補強効果の確認、無充てんPVAハイドロゲルとα-TCP分散PVAハイドロゲルの積層化材料の作成、そして関節液と同等の粘度を持つ牛血清水溶液中でのPVAハイドロゲル同士での摩擦摩耗特性の測定である。 最初のステップで、PVAハイドロゲルへα-TCPを1.5wt%および3wt%充てんした試料を製作し、その摩擦特性と材料特性を求めた。その結果、PVAハイドロゲルへα-TCPを充てんすることで材料特性が増加する条件を明らかに、また、摩擦係数が増加することを示した。 次のステップとして、低摩擦と材料特性の向上を目的として無充てんPVAハイドロゲルとα-TCP分散PVAハイドロゲルの積層化を試み、厚さ1mmの3層構造を持つ積層化材料の作成に成功した。このとき、摩擦特性は無充てんPVAハイドロゲルとほぼ同等に低く、材料特性はα-TCP分散PVAハイドロゲルとほぼ同等であることを明らかにした。 このように、本研究は大きく分けた3ステップ中、現在までほぼ計画通りに2ステップ目まで達成できている。よって、本研究課題は研究計画に従いおおむね順調に進んでいると判断する
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、本研究テーマを大きく分ける3ステップ中最後のステップを進める。具体的には、前年度に作成した無充てんPVAハイドロゲルとα-TCP充てんPVAハイドロゲルの積層化材料を高粘度溶液中で摩擦した時の摩擦摩耗特性の解明を進める。 生体関節では、関節面は軟骨であり摩擦は軟骨同士で生ずる。また関節は関節包で覆われておりその内部は水の約1000倍の粘度を持つ関節液で満たされ、関節はこの高粘度の関節液で潤滑されている。前年度までは、主にPVAハイドロゲルと鋼球との摩擦特性を純水中で測定しており、摩擦係数は生体軟骨より高い値を示していた。また、PVAハイドロゲルの摩耗量の測定は実施されていない。 本年度は、この生体関節と類似の環境において、本研究で作成した積層化材料同士を摩擦する。具体的には疑似関節液として関節液の主成分であるヒアルロン酸を添加した生理食塩水および、25%牛血清水溶液内でゲル同士の摩擦試験を行い、摩擦特性を明らかにする。 また、PVAハイドロゲルは水分を80%含んでいることから、摩耗量の定性的評価は行われているが、定量的評価が困難である。そこで、本年度はPVAハイドロゲルの摩耗量を定量的評価する技法を新たに開発する。 以上により、高粘性疑似関節液中での積層化PVAハイドロゲル同士の摩擦摩耗特性を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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