2011 Fiscal Year Research-status Report
マイクロ流動場の制御による均一巨大単層リポソームの高効率生成法の開発
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23656145
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高野 清 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (60302626)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 生体熱工学 / マイクロ流動場 |
Research Abstract |
GUVの生成率と生成挙動の観察: GUVの原材料として,動物細胞由来のリン脂質(L-a Phosphatidylcholine)を用いた.実験・観察に必要な振動流が印加できるGUVの製造装置は,数百kHzまで応答可能な積層圧電アクチュエータの先端にガラス板を接着し,水溶液を溜めたφ3.5mmの容器に振動面が水平になるように固定した横型タイプと,容器内の水溶液に垂直に浸漬できる縦型タイプの二種類を作製した.メタノールとクロロホルム混合液に実時間レーザー共焦点蛍光顕微鏡観察をするため,リン脂質膜を選択染色する蛍光色素を極微量溶解した媒質にリン脂質を溶解した後,ガラス面に塗布した. 周波数を1~40kHzに変化させGUVの成長率を測定した結果,水、KCl水溶液(100mM)では1kHz,スクロース水溶液33wt%では4kHz,41wt%では10kHzで成長率の増加が見られた.すなわち、ピーク周波数は粘性が高いほど高周波数側へ移動する.GUV生成後の再加振の影響: 内包液としてKCl水溶液(1.12wt%,300mOsm)を用い,基準状態として1kHz,10分加振(ピーク周波数:5μm)後,10Hz,100Hz,1kHz,10kHzをそれぞれ10分間加振した.そして、それぞれのGUVの直径分布を粒子計測装置(CDA-500,シスメックス)を用いて測定した.その結果,1kHz,10kHzでは直径分布に変化はなく,100Hzでは7μm,10Hzでは8μm程度にピーク周波数が変化した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度に計画をしていた「GUVの生成率と生成挙動の観察」,「マイクロスタンプによる脂質の転写と精製GUVの直径測定」に関しては,概ね遂行することができた。積層圧電アクチュエータを用い,脂質塗布面を流体中で振動させることにより、GUVの生成が可能であることが明らかになった.また、この振動には特異の周波数が存在し,流体の粘性や電解質かどうかにより変化することも明らかになった.ただし,実験ごとに生成したGUVが単膜であったり,多重膜であったりする現象が見られた.また,生成したGUVの直径についても実験ごとのバラツキが大きく,安定的に生成する手法が必ずしも確立できたとは言いにくい.さらに,生成したGUVは先端をカットしたピペットチップの吸引により生成面から分離し回収を行っているが,その際に一定の割合で破壊されてしまう現象が見られた.そのため,現状では単膜のGUVを安定的に生成・分離・回収する手法が必ずしも確立されたとは言いがたい.
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Strategy for Future Research Activity |
上述したように,23年度当初の研究計画は概ね達成できていると考えるが,単膜のGUVを安定的に生成・分離・回収する手法が必ずしも確立されたとは言いがたい.そこで,まずGUVの生成・分離・回収を安定的に行うことができるよう,ガラス面に塗布する脂質濃度の最適化,再加振の最適周波数と振幅を求めると共に,ピペットチップでの吸引以外の回収方法を検討することを行う. その後,前年度にひきつづき,水溶液の粘性や導電率を変えたGUV生成率の測定や生成挙動の観察,マイクロスタンプを用いた同種の測定・観察を完了させる.さらに,これらの測定のうち特に水溶液の粘性がGUV生成率に与える影響に注目して生成過程の解明を試みる.現段階では,(1)リポソームを剛体球とみなして,リポソーム全体のマクロな運動の解析,(2)リン脂質二重膜内の変形あるいは変形エネルギーを二枚の相対運動をする膜で隔てられた流体の片側に振動している場合について流体の流れ場とともに解析する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
応募内容に記載した様に,研究の中途でレーザーの寿命が尽きる恐れがあったため,初年度に経費の大部分に観察や測定に不可欠な現有のレーザー共焦点走査顕微鏡に用いるレーザの購入を予定していた.しかし,当該年度途中で、現有のレーザー以外の顕微鏡の走査システム全般について共焦点顕微鏡のメンテナンスが必要となった.これにより,当初予定より数箇月遅れが生じたため,レーザーの交換を寿命まで伸ばす計画に変更し,主としてレーザーの経費の繰越を申請した. 次年度の研究費の使用計画を以下に示す.GUVの生成・分離・回収が安定的に行うことができるよう,ガラス面に塗布する脂質濃度を変化させた実験や,再加振の最適周波数や最適振幅を求める実験を継続して行う.そのため,リン脂質,蛍光色素など各種の薬品類を今年度も購入する.また、積層圧電アクチュエータは使用するたびに劣化を起こすため,定期的に交換をする必要がある.さらに,(1)GUVを剛体球とみなしてGUV全体のマクロな運動の解析,(2)リン脂質二重膜内の変形や振動がある場合について流れ場とともに解析するするため,汎用のソルバーのアップグレードやソフトライセンス費が必要となる.また、実験データを整理するための人件費,学会発表に必要な参加費,交通・宿泊費,印刷,論文投稿費など当初予定していた平成24年度の金額を使用する.
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