2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23656154
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
鶴田 隆治 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30172068)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 冷凍保存 / 魚卵 / 脱水冷凍 / 細胞膜損傷 |
Research Abstract |
実現が困難とされている魚卵の凍結保存技術を開発すべく、卵膜の親水性を利用して液体メニスカスにより外表面を包み、緩慢冷却によってこれを粥状に凍結して細胞膜を固定する保護層とし、その後に全体を急冷する新たな凍結保存法の有効性を検証する。メニスカス溶液にはトレハロースなどの凍結や乾燥から細胞膜を保護する物質を用い、より大型の魚卵に対しては減圧乾燥による適切な脱水処理を加えて氷晶生成による機械的・化学的ストレスを低減する。試料には、凍結と解凍後の形状観察が容易なことから、サイズの大きいサケの卵(イクラ:直径7~10mm程度)を用いた。これを保持するメニスカスホルダーを試作し、卵とホルダーとのクリアランス、卵の予備脱水量、メニスカス溶液の種類と濃度、さらには3段階冷却法における冷却速度をパラメータとした実験を行った。溶液の具体としては、トレハロースを凍害防御剤とした水溶液を使用し、トレハロース水溶液のメニスカスによって卵表面を覆い、(1)溶液濃度による浸透圧脱水、(2)膜の氷核からの保護、(3)メニスカス溶液の緩慢凍結による粥状氷晶化がもたらす卵膜の機械的強度改善、そして(4)細胞内凍結の抑制と細胞質の保護といった効果の程度を定量的に評価した。その結果、25%のトレハロース水溶液を用い、凍結前に約15%の減圧脱水を行った後に3段階冷凍を行うこと。ならびに、解凍を5℃の空気中での緩慢解凍とすれば、細胞膜の損傷が抑えられ、約80%の割合でイクラの形状を維持したまま解凍できることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サイズの大きなイクラを従来の方法で凍結すると、解凍後にそのほとんどは形状を保てずに、内容物が流出するほどの損傷が生じる。これに対して,外部溶液をメニスカス形状に形成して凍結させる本方法によれば、卵の表面膜を保存することができ,解凍後の形状が保て,その保存効果が80%にも及ぶことが明らかとなった。以上の成果は,メニスカスを形成するメニスカスホルダーが上手く開発できたこと,および冷却と解凍方法が妥当であったことを示しており、当初の目的通り,本方法の有効性がある程度検証できたと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、魚卵の各サイズに対応して,より保存効果が高くなるようなメニスカスホルダーを開発し,同時に処理量を増やすために工夫を行っていく予定である。そのためには、魚卵のサイズによる最適なメニスカス液量を把握する必要があるとともに,事前の脱水量の最適化も必要である。また,保存法の究極的な検証はふ化実験を実際に行うことと考えている。しかしながら,その専門的知識が限られており,またその経験が全くないため,次年度ではその方向性を見据えた上で、ふ化実験に関する調査研究をまず行うことを考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
約70万円ほどの次年度使用額が生じたが、これはメニスカスホルダーの開発に予想以上の時間を要したためであり、十分なサンプル実験を行うことができなかったためである。一応のホルダー形状と処理量を増やすための知見が得られたため,次年度では,各種のサイズの魚種に対して検証が行えるよう工夫したメニスカスホルダーを作成し,同時に複数処理が可能な保存プレートを実際に製作して,十分なデータを得る計画とした。そのための物品費としている。
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