2011 Fiscal Year Research-status Report
高齢者運転能力判断用ドライビングシミュレータの現実感の評価
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23656161
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中野 公彦 東京大学, 大学院情報学環, 准教授 (90325241)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
朴 啓彰 高知工科大学, 地域連携機構, 客員教授 (60333514)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 自動車 / 高齢者 / 運転 / ドライビングシミュレータ |
Research Abstract |
高知県警運転免許試験センターにおいて,高齢者6名(55から73歳で平均68.3歳)を被験者にして,実車実験を行った.信号交差点,右左折,一時停止,車線変更などを含むコースを設定し,音声負荷(PASAT試験)を与えた場合と与えなかった場合,それぞれ3周の走行を行った.試験中は同乗者が運転技能とPASAT試験を採点するとともに,操舵角を計測し,ステアリングエントロピー法を用いて,操舵の滑らかさを評価した.同じ試験コースをドライビングシミュレータ(以下DS)においても再現し,実車試験後に同じ被験者が運転を行った.DSは23年度予算で購入したもので,モーションの再現は行わない定置型である.また,東京大学においては,8名の若者(22から33歳で平均25.4歳)を被験者にして,自動車の動きを再現可能なモーション型DSと定置型DSを用いて同じ実験を行った.高齢者はシミュレータ酔いをおこすことが多かったため,被験者に用いなかった.定置型DSの方が実車やモーション型DSよりもPASAT試験の正答率が高くなる傾向が見られた.運転よりもPASAT試験に集中してしまっていることが示唆される.操舵に関しては,モーション型DSの方が定置型DSよりも操舵が滑らかであった.実車実験後の定置型DSにおいては,実車実験では見られなかったコース逸脱など著しい操舵の乱れが多かった. 以上の結果より,モーション型の方が定置型DSよりも,現実感があることが示された.ただし,PASAT試験がある時とない時の運転特性の変化は,実車試験及び2種類のDSにおいても同じであった.絶対的な評価を行う際にはより現実感のあるDSを用いる必要があるが,条件による運転特性の変化を評価する際には,同じDSを用いれば,必ずしもモーション型DSではなくても,有効な結果を得ることは可能であることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高知県警のご協力を得て,高知県運転免許センターで,被験者として,高齢者6名および2名の若者に実車両を運転して頂き,音声負荷(PASAT課題,音声による加算課題)を行いながら運転した時と,負荷のない状態で運転した時の特性の変化を計測した.また,同時に,新規に購入した簡易型の定置型DS(23年度経費)に,運転試験場と同じコースを再現し,実車試験後に運転して頂いた.これらの実験は,研究計画に記述したとおりであり,計画は順調に達成したものと考える.実車とDSを運転した時を比較すると,DSの方がPASATの正答率は向上しており,実車の方が運転に集中しようとする意識が高いことが示唆された.また,東京大学では,既存のDS実験を行い,8名の若者(22から33歳で平均25.4歳)を被験者にして,モーション装置を動作させた時と,させなかった時の運転特性を調べた.モーションがある時の方が,ステアリングエントロピーが低く,操舵が滑らかになっていることがわかった.高齢者も被験者として呼んだが,シミュレータ酔いをおこすことが多かったために,解析対象から外した.実験自体は計画書通り進めたが,シミュレータ酔いにより高齢者を被験者にできなかったところは,計画書に修正が必要な点であった.これらの実験により,モーション型の方が定置型DSよりも,現実感があることが示された.ただし,PASAT試験がある時とない時の運転特性の変化は,実車試験及び2種類のDSにおいても同じであった.これらの知見は,目的および計画書に沿う形で得られたと考えている.シミュレータ酔いがあったところが計画書通りに進まなかった点であらが,研究全体で考えれば計画通り進んでいると判断できるため,概ね順調と考える.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、23年度で得られた計測結果より、定置型とモーション型で差の出やすい状況を選び、その状況が強調されるような道路シナリオを作成する。23年度の実験において,操舵特性に差が生じたため,カーブおよび交差点の右左折を中心にしたコースを設計し,ステアリングエントロピー法を中心に,その差の傾向をより詳細に調べることを考えている.平成23年度において実車試験においても,DS実験においても操舵に関しては同様の傾向が得られたことから,多数の被験者に対して諸条件を統一することが容易なDS実験を中心に行うことを考えている.24年度は23年度に実施したDS実験をより被験者を増やして行う予定である.特に,シミュレータ酔いのために,高齢者を被験者にすることが困難であった.そのために,道路シナリオ等を工夫することにより,シミュレータ酔いの少ないDS実験の方法を考え,高齢者の被験者を増やす予定である.また,23年度から継続してPASAT以外の課題を調べているが、PASATによって目的通りの結果も得られ,23年度の実験との統一性も考えて,PASATを利用する方向で考えている.当初の研究計画には書かれていないが,シミュレータ酔い自体のメカニズムも検討することにしている.被験者の心拍や筋電位などの生体信号の計測を積極的に行い,シミュレータ酔いの原因を考察し,シミュレータ酔いの少ないDSや,試験方法を提案する.これらの試みは,高齢運転者の運転技能を評価するのに適したDSを提案するという本研究の目的に含まれものと考えている.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度は,より有意な結論を導くために被験者の数を増やすため,23年度の実車試験を継続して行う予定である.これにより,高知への出張費を計上している.また,研究分担者の朴啓彰氏は医師であり,高齢者の運転特性にも詳しいため,本研究に関する会合は継続して行っていく予定である.なお,23年度は高知での実験が多かったため,朴啓彰氏の経費はあまり使われていないが,24年度は東京で行うDS実験および,会合に来て頂くことも考えているため,24年度も経費を配分することにしている.被験者を利用した実験も行う予定であるため,謝金を計上している.また,シミュレータ酔いの研究も進めていく予定である.筋電位計,心拍計などの生体信号計測装置は既存のもので対応するが,ディスポーサルブル電極などの消耗品が必要である.その経費も計上することにした.
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