2011 Fiscal Year Research-status Report
生体ゆらぎに学ぶ確率共鳴現象を利用した情報処理素子の創製
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23656209
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田畑 仁 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00263319)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ゆらぎ / スピングラス / リラクサー / レーザーMBE |
Research Abstract |
生体ゆらぎを模倣するため、スピンゆらぎを利用する「スピングラス材料」、双極子グラスを利用する「リラクサー材料」の2つに絞り材料開発を実施した。室温スピンゆらぎ材料の開発を実施した。具体的には先行研究で開発した、室温でスピングラス(クラスターグラス)を示す材料:スピネル型フェライト材料(Appl.Phys.Lett. 78 (2001) 512 & 76 (2000) 1179)を活用して、その "スピンゆらぎ"を利用することで、生体ゆらぎの模倣を試みた。磁性イオンと非磁性イオンの拮抗が生み出すスピンフラストレーションがスピングラス創出のポイントと考え物質設計を行なった。具体的な材料として、(Ru, Fe3+) {Ru, Fe2+, Fe3+, Al3+}2O4およびZnO酸化物半導体を選定した。この物質を、レーザーMBEにより、SrTiO3, Al2O3基板上へエピタキシャル成長させた薄膜を形成した。さらにこれらのサンプルに対してMCD, SQUID等による磁気物性評価、およびマイクロプローバによる輸送特性評価した。 本研究を遂行するに当たっては、生体ゆらぎを模倣するための新材料、すなわちスピンゆらぎを利用する「スピングラス材料」、双極子グラスを利用する「リラクサー材料」の薄膜素子化が成功の鍵となる技術である。これまで、研究室の既存の真空チャンバーにて予備的研究を実施してきたが、本申請研究を効率的に推進するために、専用装置の導入が不可欠である。形成雰囲気温度が非常に高い(1300℃)能力を有する装置(レーザー誘起VLS装置)を整備し、不純物の混入等を避けて薄膜試料を合成し、さらに、物性の精密制御に向けた雰囲気ガス制御を可能とするよう周辺装置を構築した。得られた成果の情報発信の為に、国内学会および海外学会(MRS@米国)への参加して発表済み。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は震災の影響により、実験装置(レーザ発振器)の破損があったこと、また電力使用制限のため真空装置の終夜運転等を自粛したことにより、当初予定どおりには実験が進行しなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に経済資源(予算)を集中して実験を効率的に進める予定である。今後の研究発展予定としては、生体ゆらぎ原理に基づく新デバイス(確率共鳴デバイス)により期待される機能として、(a) 共鳴を利用してノイズに埋もれた信号を取り出す「確率共鳴」情報処理素子。(b) ノイズを印加する事によって秩序運動が出現する「ノイズ誘起秩序」判断素子。(c) 不安定な状態間のネットワークから安定な状態間遷移の規則が生成する「ルナーアトラクター選択」 などが考えられる。これらは、「認知・判断素子」、「脳型判断メモリ」としてCPUを補助するコプロセッサとしての利用が期待される。」以上のように、生物における情報処理のダイナミクスを、準安定なポテンシャル中での粒子の運動の総和として捉え、スピンや、双極子物性で模倣し、「確率共鳴現象」を活用した情報処理により、生物の情報処理機構を具現化出来ると考えている。つまり、準安定なポテンシャルの深さは「ゆらぎ」の大きさと同程度のために各階層での安定性は低いが、システム全体としては安定化し、環境が変化した時にもシステム全体として柔軟に応答することが期待される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
スピングラス材料に於ける、"スピンゆらぎ"を活用した情報処理素子の研究開発を目指す。脳における情報は、各々重みがつけられた多入力情報が、ある閾値をこえた時に発火することで次のレセプターへと転送される。このシナプス情報処理の原理式が、スピングラス状態と同値の物理的数式(ハミルトニアン)で示されることを利用して(ホップフィールドモデル)、スピングラス材料により脳機能模倣型の情報処理素子を開発する。磁性イオンと非磁性イオンの拮抗が生み出すスピンフラストレーションがスピングラス創出のポイントと考えている。具体的な材料として、前年度積み残しとなった(Mg2+, Fe3+){Mg2+, Fe2+, Fe3+, Ti}2O4、Al0.5Ru0.8Fe1.7O4 などを検討する。これらを、レーザーMBEにより、SrTiO3, Al2O3基板上へエピタキシャル成長させた薄膜を形成しMCD,SQUID等による磁気物性評価、およびマイクロプローバによる輸送特性評価を行う。さらに、磁性素子としてハードディスク等に用いられているトンネル磁気抵抗素子をモデルとして、磁性(100nm)/絶縁体(1~2nm)/スピングラス材料のスピントンネル接合素子において入力信号パルスの強度、パルス幅を違えることにより多入力を実現し(ハミルトニアン第1項)、トンネル接合の障壁を閾値として、スピントンネル電流を検出することにより、脳型情報処理素子を実現させる。スピングラスを認知・判断機能素子としてスピンインジェクション層に使用する事で、最適解と照合(認知・判断に相当)するフィルター機能を評価する。
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