2011 Fiscal Year Research-status Report
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23656240
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
河口 仁司 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 教授 (40211180)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | スピン注入 / スピン緩和 / スピン面発光半導体レーザ / 円偏光レーザ発振 / 円偏光スイッチ / (110)量子井戸 / 電磁誘導透過 / フォトニックデバイス |
Research Abstract |
本研究の初年度である平成23年度は、以下の2点で大きな研究成果を得た。(1) (110)スピン面発光半導体レーザの広帯域円偏光発振円偏光で発振するスピン面発光半導体レーザ(VCSEL)では、偏光特性を応用する上で、高い円偏光度Pc で発振することが求められる。光学遷移選択則において、スピンの揃った電子が正孔と再結合する際、重い正孔(hh)と軽い正孔(lh)では、反対の円偏光を発する。そのため、円偏光発振特性の発振波長依存性を調べることは、高Pc を有するスピンVCSEL の構造設計上重要である。室温で長い電子スピン緩和時間を示す(110)GaAs/AlGaAs 量子井戸(QW)を活性層としたVCSEL を用いて、e-lh からe-hh 波長に渡り、円偏光発振特性の発振波長依存性を調べた。その結果、e-lh 波長を含めて、いずれの発振波長においてもσ+成分で円偏光レーザ発振しており、Pc > 0.8 の高い円偏光度を示した。これより、e-lh 波長近傍においてもσ+モードの光学利得が支配的であることが分かった。(2) GaAs/AlGaAs MQW の電子スピン緩和時間測定法に関する検討半導体中に光励起した電子のスピン緩和時間測定法として、偏光時間分解フォトルミネッセンス (PTRPL) 測定法、カー回転や反射率変化を利用した反射型ポンプ・プローブ測定法などが知られている。GaAs/AlGaAs(110)多重量子井戸(MQW)を用い、初めてこれら3 種類の測定法について比較した。PTRPL 測定は、電子のスピン偏極率が求まる点で有利である。カー回転角の測定からはスピン偏極率の値は求まらないが、スピン緩和時間の測定に有利であることがわかった。室温において各測定方法を用いて電子スピン緩和時間を測定した結果、いずれの方法においても1.5~2.1 ns の値が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の本研究の目標の1つは、強磁性電極からVCSELへスピン偏極電子を注入することにより、円偏光レーザ発振を実現することであった。Fe電極とAlGaAsとにより、ショットキー障壁を形成し、トンネル電流によりスピン偏極電子をGaAs/AlGaAs LED構造に注入した。この実験により、数Tの磁界中で約10%の円偏光度をもつ発光を観察した。しかし、まだ実験の再現性に乏しく、スピン注入VCSELによる円偏光発振には至っていない。一方、9.研究実績の概要に詳細に記載したように、(110)スピン面発光半導体レーザの広域帯円偏光発振およびGaAs/AlGaAs MQWの電子スピン緩和時間測定法に関する検討で大きな研究成果を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は以下の研究項目に重点を置いて研究する。(1) 電流注入(110)スピンVCSEL:強磁性電極からVCSELへスピン偏極電子を注入することにより円偏光レーザ発振を実現する。強磁性電極は当面、FeおよびCo2MnSi/MgOを用いる。次に短電流パルス励起による円偏光度の向上、Fe/Ptなどの磁化容易軸が膜面に垂直な強磁性薄膜を検討する。又、垂直磁気記録に用いられているように、部分的に磁化することにより、磁化方向が反平行な複数の電極をVCSEL上に形成し、上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子を別々にVCSELに注入できるようにし、レーザ発振偏光の自由な制御・スイッチを可能にする。DBRなどヘテロ障壁でのスピン緩和にも注目し、スピンVCSEL構造の最適化をはかる。(2) (110)スピンVCSELの高速動作:平成23年度にひきつづき、光励起/電流注入 (110)スピンVCSELを高速動作を中心に検討する。簡単なレート方程式の小信号解析から、スピン偏極度が高いほど変調速度が高くなることが知られている。本研究ではこのような、スピンVCSELの高速変調特性を実験的に明らかにするとともに、スピン注入による偏光変調、および左右の円偏光間の双安定スイッチングを実現する。(3) 電磁誘導透過とスローライト:(110)GaAs量子井戸構造をもつ光導波路を作製し、電磁誘導透過(EIT)現象を観測すると共に、この現象を用いてスローライトの実現を目指す。室温においても長いスピン緩和時間をもつことから、室温でEIT現象が観測できる可能性がある。スローライトは物理的興味から、また、光バッファメモリなど実用面からも注目されている。電界を印加することによりスピン緩和時間を制御することができることから、遅延時間が制御可能な光バッファの実現が期待できる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度に未使用額が生じた要因は、研究の進捗状況に合わせ、予算執行計画を変更したことに伴うものである。平成24年度は、スピンVCSELの作製とそのレーザ発振特性の評価が中心となる。VCSELに用いるへテロ構造ウエハの成長には申請者らの研究グループに既存のMBE装置を用いるが、その運転のための寒材および半導体単結晶基板やMBE材料およびMBE装置の消耗品が必要になる。又、デバイス作製用のフォトマスクおよび高純度化学薬品、光学測定用の光学部品、および成果発表・研究打合せのための旅費が必要である。さらに、データ整理のため謝金も必要である。
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