2011 Fiscal Year Research-status Report
転倒時の骨折を防ぐ高齢者施設の床の安全性確保に関する実証的研究
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23656364
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
三浦 研 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 准教授 (70311743)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池渕 充彦 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (70453131)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 特別養護老人ホーム / 転倒 / 転落 / 骨折 / 床 / 衝撃吸収性 / 床下地 |
Research Abstract |
高齢者の転倒・転落事故に対して、床の安全性についての検討はこれまでなされてこなかった。このため、わが国ではコンクリートの床に長尺シート等を直貼りした衝撃力吸収性の低い床が一般的に採用されている。本研究は、高齢者施設の床の工法(硬さ)が転倒・転落骨折に及ぼす影響について調査を行うため、WAM NETに登録する竣工から3年以上経過した全国の特別養護老人ホーム(以下、特養)5989施設から無作為抽出した2,000施設にアンケートを実施し、359施設から有効回答を得て以下の知見を得た。1)特養では利用者100名あたり年間、転倒51件、転落27件、転倒転落骨折2.4件が発生すること、2)特養の種別、職員配置と転倒転落骨折には有意な関係は認められないこと、3)床材と骨折率の関連は認められない一方、床下地が「直貼」の場合、転倒骨折率2.39%、転落骨折率0.39%、転倒・転落骨折率2.71%と高いのに対して、床下地が「根太・二重床・その他」では転倒骨折率1.59%、転落骨折率0.29%、転倒・転落骨折率1.81%と低く、「根太・二重床・その他」の施設は「直貼」の施設よりも約30%骨折率が低下することが統計的に確認された。特に、転倒・転落骨折率においては、有意水準1%で有意な差が認められ、転倒・転落骨折の予防には、特に床下地の衝撃吸収性の重要性が明らかになった、4)転倒・転落骨折予防の環境上の取り組みでは、「居室の床に畳・カーペット・マット等の柔らかい床材の導入」「利用者家族の同意に基づくやむを得ない抑制ベルトの使用」の項目において、また、ケアの取組では、「転倒・転落予防のための動作訓練(起立訓練、移乗訓練)の実施」と「転倒・転落リスクの高い利用者が服用する薬の見直し、変更」の効果が認められた一方、「個別の排泄リズムによる随時のトイレ誘導の実施」などは効果が認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
RC造、鉄骨造、木造、2×4造など、高齢者施設の構造や、二重床、根太組みの有無などの床の施工方法等による床の衝撃吸収性の違いが大腿部頸部骨折等の発生に及ぼす影響や因果関係はこれまで実証されていない。 こうした問題意識に基づき、平成23年度、本研究は、1)高齢者施設における転倒事故の年間発生件数および骨折の発生件数(発生率)、2)発生時の姿勢等に関するアンケート調査を実施し、3)高齢者施設の構造や床仕上げの違いがどの程度、安全性に影響しているのか、統計的な検証を行った。4)特に発生時の姿勢と骨折等の分析については、分担研究者である、整形外科(専門:膝関節)の池淵充彦氏に医学的な見地から詳細に協力をいただくこと、5)調査対象施設は、RC造/RC造二重床/木造の高齢者施設(特養・GH)において実態調査(各150施設、計300施設)を行い、統計的な分析を行うこと等を予定していた。このうち、2)の転倒時の姿勢については、アンケートでの把握が困難なことから実施を見送った。くわえて、4)の整形外科の見地からの分析については、アンケートのとりまとめが遅れたことから十分には進まなかった。しかし、研究の最大のポイントである1)3)については、統計的な有意差が導かれ、床の施工方法等の差による床の衝撃吸収性の違いが骨折の発生に影響を及ぼすことを初めて実証できた点は大きな成果であった。特に、5)の対象数を計画書の300施設から大幅に増やし、特別養護老人ホームにしぼり2000カ所にアンケートを送付した結果である。その一方、当初予定していたい」介護職員が床に求める性能に関するアンケート調査(足腰への疲労軽減、車いすの操作性、耐久性)」については、アンケート項目が膨大になりすぎ、回答率を優先した結果、実施できていない点が課題となった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度は特別養護老人ホーム(以下、特養)を対象として、アンケートによる実態把握調査を実施し、直貼りの床がその他の床に比べて転倒骨折に有意に影響していることを統計的に明らかに出来た。 しかし、特養は鉄筋コンクリート造や鉄骨造で建てられるため、木造の事例がほとんど無く、木造の効果を統計的に分析するにはサンプルが不足していた。また、寝たきりや車いすの使用者が多い特養では、歩行できる高齢者のデータが限られた。そこで、今年度は、特養よりも規模が小さく、木造が一定割合を占める認知症グループホームを対象として、平成23年度と同様の転倒、骨折の実態に関するアンケートを実施し、伝統的な木造建築が転倒、骨折に及ぼす効果の有無を明らかにする。なお、アンケートの実施においては、平成23年度の実施項目をさらに改善する予定である(転倒、骨折数の欄に、該当数がない場合、0を記入するよう補足説明を設ける)。また、特養よりも入居定員が小規模であることを考慮し、一定の統計的な処理を可能にすべく、アンケートの配布数を前回の2000よりも増やす予定である。 こうしたアンケート調査に加えて、現在、不足している木造施設における床の衝撃吸収性の実測を実施すること、およびこれらの調査結果を踏まえて、床の安全性能の指針に関する医学(整形)の見地からの検証を池淵充彦氏(大阪市立大学医学研究科)の協力のもとで検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、まず、認知症グループホームを対象にアンケート調査を実施するため、郵送費を含む「その他の経費」として15万円を計上した。また、アンケートの発送作業(郵送先住所のWAMネット掲載データからの収集、宛名ラベル作成、宛名ラベル貼り付け等)、データ入力作業(SPSS用の集計データの作成作業)の「謝金」として15万円を計上した。アンケートの実施は、他の研究事業のアンケートと重ならないよう、締め切りを10月内に設定できるように、9月中に実施する予定である。このため、「その他・謝金」については、8月から11月ごろの執行を予定している。 また、木造施設の床の衝撃吸収性の実測調査については、7月から8月を主としつつも、それ以降も、先方の施設と調査の合意が得られた時点で実施を重ねる予定である。このため、旅費は7月から2月まで幅広い期間に執行する予定である。 床の安全性能の指針に関する医学(整形)の見地からの検証については、昨年度の研究成果の公開、既往研究のレビューを併行して実施する予定である。学術論文への投稿が認められた場合は、論文投稿料等が「その他」費用に加わる予定である。「物品費」は、床の実測データの収集、アンケート調査、論文作成に関連して費用を見込んでいる。調査全般に関わるため、通年での執行を予定している。
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Research Products
(2 results)