2012 Fiscal Year Research-status Report
日本における岩盤掘削技法と石造建築文化に関する調査研究
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23656377
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Research Institution | Cyber University |
Principal Investigator |
柏木 裕之 サイバー大学, 国際文化学部, 教授 (60277762)
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Keywords | 石造 / 採石場 / 石工 / 生産組織 / 掘削技法 |
Research Abstract |
平成24年度は国内の採石場と石造建造物について悉皆的な調査を継続した。日本の石材は凝灰岩と花崗岩が大部分を占める。前者は火山から噴出した火山灰が沈殿し、凝固した多孔質の石で、軽く安価で、加工が容易なことから、石塀や石窯、石の倉庫などに多用されてきた。一方花崗岩は、硬く、重く、磨くと美しい光沢を放つため、墓石やビルの外壁として数多く使われた。平成24年度は建築的な観点から、前者の凝灰岩を中心に調査を実施し、花崗岩および石灰岩は比較の視点から調査を行った。 平成24年度に現地調査を実施した凝灰岩系の採石場は、札幌軟石(北海道)、高畠石(山形県)、大谷石(栃木県)、深岩石(栃木県)、岩舟石(栃木県)、藪塚石(群馬県)、房州石(千葉県)、伊豆石(静岡県)、竜山石(兵庫県)などである。このうち、札幌軟石と大谷石は現在も採石が行われており、採石現場を訪問し、実際の作業工程を取材した。特に大谷石では地表面から順に石を採る露天掘りと、深い竪坑を掘って地下の石材を横方向に採る垣根掘りが見られ、両者の採石業者からそれぞれの特徴を聞き取った。 採石地は石のまちでもあり、石の建造物や施設が数多く作られた。そこで建造物のうち石蔵に焦点を当て、各地の石蔵の構造や様式の比較を試みた。またNPO大谷石研究会と共同で、宇都宮市西根地区に残る石蔵集落の調査を実施し、石造りの貴重な町並みの整備保存に向けた提言を行った。 花崗岩の採石場として香川県小豆島と大島石で知られる宮窪(愛媛県)、庵治(高松)、犬島(岡山県)など瀬戸内地域を重点的に訪れ、丁場の調査を行った。特に宮窪では文化資源として採石場を活用する試みを行っており、意見交換を行った。また花崗岩を用いた建造物である近世城郭の石垣について技術書の研究を行うとともに、甲府城などの石垣の修復現場を訪れ、構築技術について研究者と情報交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
木造に比べ石造の研究は大きく遅れており、各地の採石場や石工に関する包括的な研究は不十分である。このため各地域を実際に訪ね、聞き取りを含めた一次資料を集める方法が欠かせない。これまで凝灰岩を中心に、主に関東近郊の採石場を訪ね歩き、古道具や古資料などの所在確認を進めてきた。 手掘り時代の作業の様子や道具の種類、石質の見分け方や石の表面に残された鑿痕の違いなど、書物からは得られない情報を職人から直接得ることができた。特に現在も採石業が行われている大谷地区や伊豆半島、房総半島にはこうした資料が多く残っていることが明らかとなり、また調査研究の行われていない石蔵も数多くあり、今後検討すべき項目やテーマが明確になった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで関東を中心に凝灰岩採石場と石の建造物について現地調査を実施してきた。その結果、大谷地区や房州半島などの採石業者宅には整理されていない古文書が多数残っていることが判明した。近代の石工の実態を示す資料として貴重であり、それらの分析が必要である。古道具や古資料類は、ひとたび廃業になると廃棄されるケースが多く、海外の安い石材に押され、閉山が相次いでいる今日の状況を鑑みると、調査範囲を広げ早急に保全措置を講ずる必要があると考える。またこうした資料からは、例えば大谷地方で知られる垣根掘りという工法は伊豆長岡から伝えられた手法であり、逆に大谷で始まった機械掘りの技術が房州半島へ伝えられたなど、職人の移動と技術の伝播の関係が明らかになっている。そのため範囲を東北地方や甲信越地方などに広げ、採石技術の地域的な特徴とその流れを描くことが必要である。 本研究の開始は東日本大震災が起きた直後であり、倒壊や半壊のため石蔵を調査することが難しかった。落ち着いた時期になるとすでに取り壊されていたケースもあり、石蔵が失われつつある状況は今も続いている。一方被災地では、木造家屋は津波で失われたものの、石蔵だけが敷地に残されている場合もあり、詳細に検討し、石の建物を再評価する必要もあると考えている。 石蔵の耐震補強も今後の課題である。各地で煉瓦造も含めた組積造建造物の再生、活用が試みられている。そうした事例を多くの人が広く活用できるように収集する作業も必要である。この他、閉山した採石場の跡地利用も大きな課題である。平成24年度は研究中に大谷地区で陥没事故が発生した。負の遺産とこれからどのようにつきあっていくのかを考えるための、有用な資料を本研究が提示することが求められる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(2 results)