2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23656381
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
谷山 智康 東京工業大学, 応用セラミックス研究所, 准教授 (10302960)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | スピンエレクトロニクス / 磁性 / 先端機能デバイス |
Research Abstract |
電子スピン制御により実現される多機能スピントロニクスデバイスは、磁性金属のスピン偏極した電子を半導体や非磁性金属に注入することで動作する。そのためスピン注入用高スピン偏極材料の開発が急務とされている。一方で、高スピン偏極材料の開発にとって不可欠なスピン偏極率の定量化法に関しては、現状では、デバイス化を必要としない唯一の方法でさえ超伝導を利用するという理由からその適用条件は低温に限定され、材料開発を推進する上でのボトルネックとなっている。本研究では、時間分解スピン緩和計測法を利用することで環境を選ばない様々な条件下において利用可能なスピン偏極率の定量化法の礎を確立することを目的としている。本年度実施した研究概要について以下に記す。(1)強磁性薄膜のMBE成長(時間分解ポンプ-プローブ用試料の準備) スピン偏極率が異なる種々の磁性薄膜を現有のMBE装置を用いて成長した。具体的には、ハーフメタルと理論的に予測されている磁性酸化物マグネタイト(Fe3O4)、遷移金属規則合金FeRh、および典型的な強磁性金属Feを成長するための条件を精査した。(2)ポンプ-プローブ法によるピコ秒スピン緩和過程の計測 現有のポンプ-プローブ法を用いた磁気光学Kerr効果測定装置により、GaAs量子井戸に円偏光励起されたスピン偏極電子のスピン緩和過渡過程を計測し、本研究で用いる時間分解Kerr効果の性能を調査した。その結果、緩和時間23ps程度のスピン緩和過程を明瞭に計測できることを確認した。一方、強磁性Fe薄膜/MgO(001)構造に対して磁化緩和過程を計測したが、明瞭な信号が得られるまでには至っておらず、引き続き測定条件等の改善が必要とされた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H23年度交付申請書に記載の実施計画をおおむね完了しているため。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究において洗い出された問題点を踏まえ、以下の研究項目を実施し、研究目的の達成を目指す。(1)前年度においてFe/MgO(001)構造に対して明瞭なスピン緩和に関する信号を得ることができなかった。本問題点を解決することを目的として、対物レンズを用いて照射光のフォーカスサイズを微小化することにより励起光密度を強化することを試みる。また、励起光のエネルギーを変化させる方法についても併せて検討することで、強磁性体に対するスピン緩和過程の計測を実現する。(2)スピン緩和過程とスピン偏極率との相関を明らかにするためには、他の手法により標準試料のスピン偏極率を事前に算出する必要がある。そのため、強磁性体/半導体量子井戸ヘテロ構造においてスピン注入により生じる円偏光発光からスピン偏極率を事前に算出する。(3)時間分解Kerr回転計測により得られる磁性体のスピン緩和に関する情報と量子井戸からの円偏光発光から見積もられたスピン偏極率との相関について明確化し、スピン偏極率をスピン緩和時間の関数として表すことで本手法の有効性を検証する。以上を取りまとめ、本研究を総括する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画では今年度学会発表用に旅費を計上していたが、実験結果について精査が必要であると判断して、学会発表を次年度に行うこととし、また、金属材料等の消耗品の実消費量が見込み消費量より少量であったため、本年度に予定していた消耗品用の予算の執行を次年度に行うこととした。その結果として、本年度の執行額に残額が生じた。これらの残額と次年度の予算の執行計画については下記に示す通りである。 今後の研究の推進方策に記した通り、研究項目(1)に関連して、照射光のフォーカスサイズを微小化し励起光密度を強化して磁気光学効果を計測するためには、高NAを持つ対物レンズが必要であり、さらには、照射光の位置を確認しながら磁気光学効果を計測する必要がある。そのため、高NA対物レンズに加え、CMOSカメラ等、光学機器、光学部品を購入することを計画している。研究項目(2)に関しては、強磁性体/半導体量子井戸ヘテロ構造を作製する必要があるため、半導体基板類、金属材料類、その他消耗品類を計上する必要がある。測定装置系に関しては現有の物品を活用する。また、試料作製に用いるMBE装置類の整備のために、真空部品類を計上する必要がある。以上の購入予定物品は本研究項目を実施する上で必須の物品と考えられ、これらを購入することにより本研究目的が達成されることが期待できる。加えて、次年度、上記の研究により得られた成果を学会等において発表することを予定している。
|