2011 Fiscal Year Research-status Report
半導体中の浅い準位間遷移を利用した室温・連続波テラヘルツ波光源
Project/Area Number |
23656392
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小山 裕 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80169367)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | テラヘルツ / 浅い準位 |
Research Abstract |
本年度は、ゲルマニウム単結晶中の浅い準位間遷移による室温テラヘルツ放射特性を詳細に調査した。種々の抵抗率を有するn型p型結晶について放射特性を調査し、放射出力の抵抗率即ち浅い準位密度依存性を明らかにした。その結果、テラヘルツ放射出力は抵抗率が高い程高出力となり、p型結晶よりn型結晶の出力が高い事が分かった。これは、発生テラヘルツ出力が、自由キャリア吸収によって決定されているためと考えられる。また、ゲルマニウム結晶に深い準位を形成するCu、Fe、Ni等の遷移金属不純物を添加し、キャリアキラー中心として作用させる事でキャリア密度を低化する実験を行なった。その結果、最適な条件で添加する事により、テラヘルツ放射強度の増大をはかる事が出来た。次に、ゲルマニウム結晶を冷却し、近赤外レーザー励起する事が出来、テラヘルツ光を検出す事が出来るクライオスタット系を構築し、テラヘルツ光のゲルマニウム結晶温度依存性を調査した。その結果、放射テラヘルツ光は室温付近と、それ以下の低温領域の二つの異なる温度依存性を示す事を明らかにした。室温付近から温度を下げると、テラヘルツ発生強度は一旦増加した後、減少に転じ、270K付近で殆ど放射されなくなる。更に温度を下げると再びテラヘルツ放射強度が増加し続ける。低温領域では自由キャリアの凍結による自由キャリア吸収の減少と、準位間遷移確率の増大により、テラヘルツ発生強度が増大するものと考えられる。室温付近の放射挙動を明らかにするために、多様な結晶からのテラヘルツ放射特性の温度依存性を調査した。その結果、ゲルマニウム結晶のような間接遷移半導体とGaAsのような直接遷移半導体では温度依存性が異なる事が明らかになった。その結果から、室温付近あるいは室温以上では、間接遷移半導体の直接遷移確率が増大することが原因であろうと考察できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の当初計画は、(1)浅い準位と深い準位導入の最適条件とフェルミ準位制御と(2)キャリア補償によるテラヘルツ波高効率発生である。(1)について、当初計画では深い準位導入のため、遷移金属元素添加とともに高エネルギー放射線照射を想定していたが、震災の影響でガンマー線や中性子線照射を行なう施設の稼働が遅れ、Cu,Ni,Fe等の遷移金属元素添加実験を先行した。しかし、深い準位添加によるキャリア密度低減と、その効果による自由キャリア吸収の減少によるテラヘルツ波放射強度増大の目的は達成されたので、上記の達成度とした。また(2)については、n型ゲルマニウムにp型アクセプター不純物を添加する等のドナー・アクセプター同時添加によるキャリア補償実験を進めた。その結果、浅いドナー・アクセプター準位同士のキャリア補償は極めて添加条件に敏感である事が分かった。次年度以降もその可能性を探る必要があると考えている。加えて、当初計画には含まれないが、室温テラヘルツ放射原理に迫るために必要であった、各種半導体結晶からのテラヘルツ放射の温度依存性実験を進め、発生原理についての考察を行なう事が出来たのは大きな進歩であった。以上の理由から上記の達成度と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
来年度は、複数の浅い準位を形成すると考えられるゲルマニウムのような四属元素半導体中への六族元素不純物添加による、発生テラヘルツ波の広帯域化を目指す。例えば、ゲルマニウム中に六族元素のセレンを添加する。価電子数がホスト結晶元素と2異なるため、ダブルドナー不純物となる事が期待できる。その結果、発生テラヘルツ周波数の広帯域化を図る事が出来ると期待している。また、これまでの、テラヘルツ帯の回折格子分光器を用いた予備的な発生周波数の測定から、2THzを中心とした広い帯域の放射テラヘルツ光であると考えられているが、来年度は、フォトリソグラフィーによる金属メッシュを配置した干渉計構造をゲルマニウム結晶に付与して、狭線幅の波長選択性を探る計画である。次年度は、これらを取りまとめ成果発表を複数行なう。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度ゲルマニウム結晶や不純物添加のための熱処理を行なう原材料費、及びレーザー光学測定に使用する励起光源に関する消耗品に充当する。また、測定が多岐に亘るため、特定の期間、集中して計測を進めるためのレーザー光学実験に習熟した人間の人件費を計上してある。次年度は、これらを取りまとめ成果発表を複数行なうための経費を計上してある。
|
Research Products
(4 results)