2011 Fiscal Year Research-status Report
レアメタル代替酸化物結晶薄膜のプロセスイノベーション
Project/Area Number |
23656457
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
手嶋 勝弥 信州大学, 工学部, 教授 (00402131)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 結晶薄膜 / 酸化亜鉛 / フラックス法 / 元素戦略 / 透明導電膜 |
Research Abstract |
薄膜(二次元表面)は,グリーンエネルギーデバイスに欠かすことができない材料形態である。本研究では,低環境負荷,高速成膜,低コストを達成する新しい成膜技術により,レアメタル代替材料開発を念頭に,高品質な酸化物系結晶薄膜(結晶層)を低温作製することを目標とする。特に本年度は,溶液法の一種であるフラックス法の概念を導入したコーティング法(フラックスコーティング法:FC法)によるZnO結晶層の形成に注力した。具体的には,硝酸塩-塩化物の混合フラックスを用い,ガラス基板にダメージを与えない温度でZnO結晶層の作製を試みた。この場合,500℃にてガラス表面にZnO結晶層をFC法により形成できた。しかし,塩化物がガラスを侵すため,副産物としてケイ酸塩結晶も生成した。そこで,ガラス層からの不純物の混入を防ぐためにZnOシード層(エピタキシャル成長も期待)を導入した。その結果,同一条件でもFC法により自形(結晶そのものの形,ZnOの場合六角柱など)の発達したZnOナノ結晶からなる結晶層を作製することに成功した。個々の六角柱状ZnO結晶がシード層を起点に,放射状に成長する様子も確認できた。ただし,放射状に成長するため,幾分空隙のある結晶層となった。フラックス未添加の場合には高品質なZnO結晶層は得られず,結晶成長へのフラックスの優位性も確認できた。さらに,より緻密なZnO結晶層形成をめざし,溶質に対する溶解力の大きなフラックス種である塩化物混合フラックスに変更した。特に,KCl-LiCl混合フラックスにすることで,高結晶性で緻密なZnO結晶層を単一相として得ることに成功した。また,結晶層-基板界面の状態なども薄膜XRDや各種顕微鏡を活用して評価し,シード層の有効性も確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,低環境負荷,高速成膜,低コストを達成する新しい成膜技術により,レアメタル代替材料開発を念頭に,高品質な酸化物系結晶薄膜(結晶層)を低温作製することを目標とする。特に溶液法の一種であるフラックス法の概念を導入し,通常の方法では成膜できない高結晶性の薄膜を低温成膜する。具体的には,(1)フラックスコーティング(FC)法により500℃以下の温度でガラスや金属表面に,あるいは(2)150℃以下の温度でポリマー表面にさまざまな酸化物系結晶薄膜を作製することを本年度の目的とした。下述のとおり,課題(1)と(2)全体では,おおむね順調に進展していると判断する。(1)については,ガラス層からの不純物の混入を防ぐためにZnOシード層(ドライプロセス成膜,エピタキシャル成長も期待)を導入した。その結果,FC法により微細なZnOナノ結晶からなる結晶層を作製できた。そのため,課題(1)については順調に進展していると判断する。(2)については,低温(150℃)でのアパタイト(リン酸カルシウム)結晶層の成膜技術を応用し,ZnO結晶層をポリマー表面に成膜することを試みた。しかし,アパタイト成膜と同一条件では,良好なZnO結晶層を形成できなかった。そこで,酢酸亜鉛水溶液を用いた前駆体層を60℃で形成したのち,フラックス処理することで高品質なZnO結晶層形成を目指した。その結果,350℃でのフラックス処理により,良好なZnO結晶層を得ることができた。しかし,150℃以下での成膜はできておらず,現在,さらなる低温化を目指している。そのため,課題(2)についてはやや遅れていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の当初課題は,3つの研究項目からなる。具体的には,(1)フラックスコーティング法により,500℃以下の温度でガラスや金属表面に,あるいは150℃以下の温度でポリマー表面にさまざまな酸化物系結晶薄膜を作製する,(2)結晶薄膜成長メカニズムを解明する,(3)さらにグリーンエネルギーデバイス応用をめざし,添加物や表面形状を制御することを目的とした。課題(1)については,熱エネルギーを用い,500℃以下の温度でガラス表面にZnO結晶層を形成できることを見出した。次年度は透明導電膜として利用するための性能向上や低コスト成膜の可能性を探ることに注力する。現状の条件をMnO系結晶層成膜に応用し,他材料への展開を図る。ただし,ZnO成膜条件を単純に応用できない場合,MnO系をペンディングし,ZnO結晶層作製に主眼を置く。課題(2)については,これまでに得られたZnO結晶層成膜の知見をもとに,核生成から成長まで,フラックス中で生じる現象を詳細に観察することで,その成長モデル解明に道筋をつける。課題(3)については,課題(1)で得られた高結晶性薄膜の特性(特に電子伝導性など)を評価し,その特性に影響を及ぼす因子を見出し,成膜条件にフィードバックすることで,実応用の可能性を探る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用については,前年度提出済の交付申請書から変更はない。試薬をはじめとする消耗品が研究費の半分を占め,残り半分を成果発表・情報収集に係る旅費と実験補助者の謝金などに使用する。
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