2011 Fiscal Year Research-status Report
化学的エネルギーの直接変換により運動するマイクロ/ナノマシンの構築
Project/Area Number |
23656501
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
鈴木 博章 筑波大学, 数理物質系, 教授 (20282337)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ナノロボット / 一電極系 / 酸化還元 / 亜鉛 / 白金 |
Research Abstract |
生体中には多様かつ高機能なナノマシンが当然のように存在している。しかし、これを人工的に実現するのは至難の業である。近年、このような生体中のナノマシンを模倣する試みが注目を集め始めている。DNA分子を順次歩かせるナノマシンの他、微生物のように、化学物質の化学的エネルギーを運動エネルギーに変換することで推進力を得る、マイクロ・ナノモーターが提案されている。 本研究課題では、後者のような自発的に泳ぎ回る微小構造体の実現を目的に研究を進めてきた。これまでの研究では、過酸化水素以外の物質を燃料として運動する2種金属接合体モーターの報告例はほとんど見られなかった。そこで、本研究では、モーター表面上でのプロトン移動に着目し、金属の酸化溶出反応とプロトンを消費する基質の還元反応を組み合わせることによって、溶液中を泳ぐモーターを構築した。 まず、亜鉛と白金からなる直径5μmの微小構造体を形成した。スパッタリングによりポリスチレンビーズの全面に白金層を形成し、次に真空蒸着によりビーズの片面のみに亜鉛層を形成した。ただし、白金上に亜鉛が乗りにくいという問題があったため、亜鉛蒸着の前に、密着層として金層を形成した。このような構造体は異種金属からなる一電極系として機能するが、白金上で何等かの酸化還元物質の還元が、亜鉛上で亜鉛の酸化(溶解)が、混成電位において同時に進行する。 次に、このようにして作製した亜鉛-白金ビーズモーターを臭素、ベンゾキノン、メタノール、エタノールの各水溶液に浸し、その挙動を顕微鏡により観察した。その結果、いずれの場合も、ブラウン運動とは明らかに異なる自発的運動が確認された。上に述べたように、これまでは燃料として使用可能な化学物質が限定されていたが、今年度の研究により、有機化合物を含む、より多くの物質が燃料として使用可能であることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は主に亜鉛を用いたモーターの実現にまず取り組むことを計画していた。亜鉛が劣化しやすいため、白金と亜鉛からなる構造体を形成するのに苦労し、時間を要したが、実験方法を確立した上で、前記のように、これまでになかった有機化合物を燃料とし、ブラウン運動とは異なる自律的運動をすることを確認した。これについての学会、論文発表は秋をめどに考えているが、全体的には計画通りに進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度は酸化還元に伴い運動するモーターの研究を進めた。この種の研究は世界的にも始まったばかりで、何故このような運動が認められるのかという根本的なところが依然として十分に説明しきれていない。そこで、界面動電現象等に関わる理論的な考察も並行して進めながら、特色を出してゆく。 24年度は異種金属接合体の作製方法を重点的に行い、ナノオーダーのモーターを容易に実現する方法を検討する。ここでは、23年度と同様に順次金属層を形成する方法の他、2種類の金属ナノ粒子を用意し、これをリンカーで結合する方法についても検討する。さらに、pH変化に伴う親水性・疎水性変化等、化学的な刺激をセンシングして、集合、離散するマイクロ・ナノモーターの研究を新たに推進する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額として計上しているもののうち、そのほとんどは既に物品費として納入済であり、支払いが4月となっているため生じたものである。その他に次年度使用額とした分は、少額ではあるが、24年度の研究費と合わせて、主に構造体を形成するための消耗品と成果発表の旅費として使用する。
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