2011 Fiscal Year Research-status Report
コヒーレント放射光を用いたテラヘルツ波電子線分光の研究
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23656596
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
清 紀弘 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測フロンティア研究部門, 主任研究員 (20357312)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | コヒーレント放射 / 放射光 / テラヘルツ / ライナック / 電子線分光 |
Research Abstract |
京都大学原子炉実験所Lバンドライナックの放射光ビームラインにおいて、コヒーレント遷移放射源として使用しているアルミ薄膜の代わりに、小型の永久磁石型偏向磁石を2台設置した。その偏向磁石間を通過する電子ビームによってコヒーレント放射光を発生させ、加速器室に隣接している実験室までコヒーレント放射光の輸送を行った。電子ビームエネルギーが25~32MeVの間の時に、コヒーレント遷移放射の約10%の強度を有するミリ波帯の放射を観測した。この放射は3~5mmの波長で最大強度となり、コヒーレント遷移放射に比べて長波長側へシフトしていることがわかった。 資金不足のため大阪大学より譲渡された四重極電磁石をLバンドライナック終端部に挿入するため、架台及び真空チェンバーを作成し、新たな四重極電磁石ダブレットを設置した。コヒーレント放射光の発光点の約1m上流の位置にてQスキャン法によるエミッタンス測定を実施し、規格化エミッタンスが水平5.0×10-4 m rad、垂直3.5×10-4 m radであることを明らかにした。これにより、電子ビームエネルギーが18~32MeVの場合は、コヒーレント放射光の発光点にてビームサイズを5mm以下にできることを確認した。 また、コヒーレント放射光を利用したテラヘルツ波電子線分光のさらなる研究を推進するため、日本大学電子線利用研究施設のSバンドリニアックLEBRAにてコヒーレント放射光観測を行った。当施設では自由電子レーザー発振のために自由電子レーザービームラインの偏向部にて電子バンチが圧縮されるので、高強度のミリ波放射が期待されたが、1μJ級の放射があることを確認できた。新たな高強度テラヘルツ光源として利用可能であるため、コヒーレント放射光の特性を詳細に調べている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
京都大学原子炉実験所Lバンドライナックを使用したコヒーレント放射光の開発、および新たに設置した四重極電磁石を用いたQスキャン法によるエミッタンス測定を行った。コヒーレント放射光スペクトルは京都大学原子炉実験所が所有する高輝度ミリ波テラヘルツ放射光分光装置を利用して測定し、コヒーレント遷移放射と比較して長波長側の3~5mmの波長にピークがあることがわかった。このため、コヒーレント放射光をテラヘルツ波電子線分光に利用する場合は、電子エネルギーは20MeVよりも高い設定で可視域の逆コンプトン散乱光子ビームが得られる。測定された規格化エミッタンスは、同様の電子銃を利用している大阪大学産業科学研究所のLバンドライナックのそれと同程度であることがわかった。設置した四重極電磁石で電子ビームサイズを当初目標である5mm以下にすることが可能であるも確認できた。 さらに、当初予定にはなかったが、日本大学電子線利用研究施設のSバンドリニアックLEBRAにてテラヘルツ波コヒーレント放射光源の開発に取り組んでいる。LEBRAでは高電荷・低繰り返しのバーストモードと低電荷・高繰り返しのフルバンチモードという二つの運転モードで自由電子レーザーを発生できるが、そのいずれの運転モードでも高出力なテラヘルツ波コヒーレント放射光が発生していることを観測した。LEBRAでテラヘルツ波電子線分光を行った場合、逆コンプトン散乱光子ビームのエネルギーは100eV付近になり、軟X線分光技術を利用することが可能である。 このように、当初予定していた平成23年度研究実施計画を順調に実施しているのに加えて、新たなテラヘルツ波電子線分光技術の開拓も進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定通り、2台の永久磁石型偏向磁石の間で電子ビームとテラヘルツ波コヒーレント放射光とを逆コンプトン散乱させるために、大部分のコヒーレント放射光を反射かつ逆コンプトン散乱光子を透過させる中空鏡システムを製作して、コヒーレント放射光輸送路に設置する。中空鏡システムの作成にあたっては、逆コンプトン散乱による高エネルギー光子と遷移放射等のバックグラウンドとの信号分離を行えるように、コヒーレント放射光を吸収できる機能を付加する。 電子ビームエネルギーを増大させた方がライナックで輸送できる電荷量が増大するため、高強度コヒーレント放射光発生にとって有利である。しかし、逆コンプトン散乱光子エネルギーの中心波長が紫外域になるため、高輝度ミリ波テラヘルツ放射光分光装置で使用しているマイラー窓は透過できない。そこで逆コンプトン散乱光子を取り出す真空窓を石英に変えて、紫外域~可視域の波長帯で散乱光子ビームのスペクトル測定を行い、コヒーレント放射光スペクトルとの関係を解明する。 さらに、有機固体材料を中心とした試料を中空鏡の直前に挿入することでテラヘルツ波吸収スペクトル測定を実施する。京都大学原子炉実験所に既存の高輝度ミリ波テラヘルツ放射光分光装置を使用した試料の吸収スペクトルと比較し、コヒーレント放射光を用いたテラヘルツ波電子線分光の実効性を立証する。 なお、日本大学電子線利用研究施設のSバンドリニアックLEBRAにて開発したテラヘルツ波コヒーレント放射源については、論文等で研究成果を公開する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題にて当初要求した研究費は減額されて支給されたが、2台の四重極電磁石を大阪大学産業科学研究所より譲渡されたため、四重極電磁石関連の支出を架台及びボタン電極付き真空チェンバーに留めて、次年度使用額に25万円程度を計上できた。これらは主にテラヘルツ波コヒーレント放射光及び逆コンプトン散乱光子ビームを輸送するミラーなどの光学部品を調達するのに使用する予定である。 また、平成24年度に本課題に支給される研究費についても要求額より減額されて支給されている。外国出張については国内で開催される国際会議に出席することで計上することを取りやめ、光学部品を中心とした消耗品については、昨年度より繰り越した経費を使用することで節約する。備品については予定通り、コヒーレント放射光によるテラヘルツ波電子線分光を実施するための中空鏡システム構築に使用する。予算額が少ないため、中空鏡システムは、20~30mmのカップリングホールを有する100mm以上の口径のミラーと、テラヘルツ波吸収体との切り替えが容易な1軸回転機能とを有した簡易な構成にする。 日本大学電子線利用研究施設のSバンドリニアックLEBRAにて開発したテラヘルツ波コヒーレント放射源に関する成果も含め、積極的に研究成果を公表する。そのため、論文や学会等の研究発表に係る費用については当初予定通り計上する。
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Research Products
(3 results)