2011 Fiscal Year Research-status Report
イネ転移因子mPingの爆発的転移に起因するヘテロシスの解析
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23657006
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
築山 拓司 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (00423004)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 転移因子 / ヘテロシス / ゲノム / 遺伝学 / 育種学 |
Research Abstract |
本研究は、活性型トランスポゾンmPingが活発に転移しているイネ細粒突然変異系統IM294の正常粒への復帰突然変異に伴って出現する強勢変異体(以下、VGI (Vigorous Growing IM294)系統)がmPingの爆発的な転移によるヘテロシスによって生じたことを証明するとともに、転移因子を用いた新しい育種法を提案しようとするものである。 通常栽培条件下におけるVGIの農業形質を調査したところ、VGIでは、IM294および品種日本晴と比較して草丈、乾物重、全穂重が有意に高かった。また、VGIの後代がこれらの形質について連続的な頻度分布を示したことから、強勢形質を制御する因子は一遺伝子の突然変異ではないと考えられた。 VGIおよびその姉妹系統の葉身から抽出したゲノムDNAを抽出し、mPing特異的プライマーを用いてトランスポゾンディスプレイ(TD)を行った。その結果、VGIは635コピーのmPingを有することが明らかになった。このうち、170箇所で切出が生じており、51コピーは新規挿入に由来していた。これらは、姉妹系統における切出や新規挿入と比較して、顕著に多いことから、VGIではmPingが爆発的に転移していることが明らかになった。 6325個体のIM294を栽培したところ、26個体の復帰突然変異体が得られた。このうち、1個体はVGIと同程度の強勢形質を発現した。VGIおよび新規強勢変異体は復帰突然変異を生じていたことから、mPingの爆発的転移は復帰突然変異によって誘発されたのではないかと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した研究計画を概ね遂行できた。すなわち、強勢形質を制御する因子が一遺伝子の突然変異ではないこと、VGIではmPingが爆発的に転移していることを明らかにした。しかし、平成23年度に計画していた、強勢変異体における遺伝子発現変化の網羅的解析は実施できなかった。これは、遺伝子発現の変化を効率よく解析するために、平成23年度はVGIの農業形質を評価したためである。次年度は、幼穂分化期の生長点から抽出したRNAを供試し、マイクロアレイ解析およびRNA-Seq解析を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、以下の研究を行い、VGIにおける強勢形質発現機構とmPingの爆発的転移との関係を明らかにする。<遺伝子発現変化の網羅的解析> 昨年度の研究から、VGIでは、IM294および品種日本晴と比較して草丈、乾物重、全穂重が有意に高いことが明らかになった。mPingは転移によって新しい遺伝子発現ネットワークを構築することから、VGI系統においては、mPingの爆発的な転移によってこれらの形質に関与する遺伝子の発現が網羅的に変化している可能性がある。そこで、次年度は、幼穂分化期のVGI系統およびIM294の生長点における遺伝子発現変化をマイクロアレイによって解析する。また、近年、ヘテロシスを示すArabidopsisの種内雑種において、遺伝子やその近傍を標的とする24ntの低分子RNAの量が低下することが報告された。そこで、次世代シークエンサーを用いてVGI系統における低分子RNAを網羅的に解析し、低分子RNAの発現量が強勢形質の発現に及ぼす効果を明らかにする。<強勢形質に関するQTL解析> 申請者らは、mPingのコピー数を多型としてjaponica間で利用可能なSCARマーカー(以下、mPing-SCARマーカー)を開発している。次年度は、VGI-日本晴交配後代における強勢形質の分離とmPing-SCARマーカーの多型を調査し、これらのデータを用いたQTL解析によって強勢形質に関与するゲノム領域を特定する。mPing転移解析および遺伝子発現変化の網羅解析の結果と併せて、mPing転移が強勢形質の発現におよぼす効果を検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、mPingの爆発的な転移が強勢形質を誘発することを実証するために、強勢変異体における遺伝子発現のマイクロアレイ解析・RNA-Seqおよび強勢形質のQTL解析を行う。マイクロアレイ解析およびRNA-Seq解析の消耗品および解析の費用を計上した。mPing-SCARマーカーを用いた連鎖地図の作成には、多くの時間と労力を必要とするため、実験補助の謝金を計上した。また、研究成果を学会にて報告する経費として旅費を、誌上発表するための外国語論文校閲費および印刷費を計上した。
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