2011 Fiscal Year Research-status Report
シロアリの異種混合コロニーを用いたシロアリ共生微生物群集の成立過程の解析
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23657013
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
北出 理 茨城大学, 理学部, 准教授 (80302321)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野田 悟子 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (80342830)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 原生生物 / 異種間交雑 / 群集構造 / 社会性昆虫 / 共生 / 多様性 |
Research Abstract |
(1)シロアリの異種混合コロニーにおける、共生原生生物群集の組成変化の解析:ヤマトシロアリ、カンモンシロアリ、アマミシロアリの3種が雑種形成可能であることを利用し、3通りの異種ペアと3通りの同種ペアで初期コロニーを創設させて25℃で飼育し、宿主種特異的な原生生物種に着目した組成変化を調査した。60日後、120日後に各4コロニーずつ調べた結果、同種コロニーの群集組成は親種のそれから変化しないが、異種コロニーでは一旦特異的な種が混合された群集になるものの、その後全ての実験コロニーで同じ親種の組合せであれば決まった親種の組成に近づいていく傾向が示された。ここから群集組成の決定に原生生物種の種間関係が大きく影響していることが示された。さらに長期的結果を得るため実験を進行中である。(2)遺伝マーカーの作製と利用のための条件設定:ヤマトシロアリの消化管内原生生物群集を標的に、遺伝的多様性を調べるため、T-RFLP法を用いるための条件設定を行った。またTeranympha属を標的に塩基配列の取得を行って多型を調査するため、原生生物1細胞のマニピュレータによる吊り出しと、等温ゲノム増幅法による全ゲノム増幅を行うための条件設定を行い、増幅に成功した。(3)野外のシロアリ共生原生生物群集と、環境が原生生物群集組成に与える影響:徳之島でオオシロアリの原生生物組成調査を行うとともに、これまでの本種の野外調査結果をまとめた。また、温度条件を変えてそれぞれヤマトシロアリの実験コロニーを2ヶ月間飼育し、原生生物群集の組成変化を調べる実験を行った。個体数や平均種数は比較的高温の28℃実験区で最大になったが、多変量解析の結果、野外コロニーに近い群集構造をとるのは18℃、次いで23℃であり、8℃や28℃では大きく組成が異なることが示された。温度の周期的変化が群集組成と安定性に大きく影響することが示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヤマトシロアリ属の3種のシロアリの有翅生殖虫が早期に入手が可能となったため、今年度は主要な実験計画の1つであるシロアリ3種を用いた異種間交雑コロニーの実験系の作製を、実施時期を早めて中心的に行った。飼育の簡便さから、当初使用予定であったミヤタケシロアリではなく、カンモンシロアリを使用した。共生原生生物の種組成の異種混合コロニーにおける経時変化の観察を行った結果、種組成の変化の様子の概要を明らかにすることができた。また、原生生物の種組成や各種原生生物の計数のための手法を工夫改善し、これらを問題なく行えることも確認でき、今後のさらに詳細な実験の基盤を作ることに成功した点で、予定以上に研究計画を進めることができた。 一方でマイクロサテライト遺伝マーカーの作製や、T-RFLPマーカーの本格的な適用等の分子遺伝学的実験は、上記の変更と対応して、時間と労力の関係から、当初計画をやや遅らせて実施することとした。またこれらと関連して、等温ゲノム増幅法による全ゲノム増幅の検討を行った。従来用いてきたマニピュレータで分取した細胞を直接PCRの鋳型として使用する手法には、複数回の増幅が難しいという問題点があった。マニピュレータで釣り出した特定の原生生物細胞から、phi29DNA polymeraseにより細胞の全DNAを増幅する手法により、1細胞から充分な量のDNAを合成することが新たに可能になった点も進展である。 また群集組成の変化を解明する際の基礎となるシロアリの野外コロニーの原生生物組成と、環境条件が組成に与える影響についてもそれぞれ調査と実験を進めることができた。これらの結果は、中心的課題である群集混合実験の結果と併せて群集構造の決定要因の考察に役立てることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度から行っているシロアリ3種を用いた異種間交雑コロニーの実験を継続して行い、コロニー創設から600日後の原生生物群集組成を種組成と各種個体数を併せて調べることで、群集組成の変化の様子を詳細に解明する。結果は主成分分析等の多変量解析を適用することで解析する。また、創設直後の群集構成種の混合の様子を追試するため、奄美大島で有翅生殖虫の採集を行う。また、ヤマトシロアリとカンモンシロアリを混合させる人工コロニーを作製し、その消化管内の原生生物に対してT-RFLPを適用し、形態と共に分子遺伝学的に組成の変化をモニターすることを試みる。その際当初計画に基づき、抗生物質をどちらかの種のシロアリに与え、細菌相に対する大きな変化が混合コロニーの原生生物の組成に影響するかどうかを併せて明らかにする。このため、材料として用いる原生生物を山口県で採集するとともに、野外コロニーの原生生物群集組成を調査する。また、原生生物の分子遺伝学的モニタリング手法について、今年度は研究を進める。T-RFLP以外にも、SSUrRNA遺伝子のより多くの配列の同時取得による解析を含め、異種混合コロニーにおける原生生物組成のモニタリング手法を併せて検討する予定である。また、 Taranympha属の原生生物を対象として、マイクロサテライトマーカーの作製を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
シロアリ類の消化管内共生原生生物に対するT-RFLPとSSUrRNA配列を取得する実験のため、実験用試薬類とプラスチック製実験器具が必要になる。またTeranympha属の消化管内共生原生生物を対象としてマイクロサテライトマーカーを作製する実験のために、実験試薬とプラスチック製実験器具が必要になる。さらにシロアリ類の異種混合飼育実験のためには、プラスチック製飼育容器と餌となる木材粉末等が必要となり、これらの目的のために物品費(消耗品費:実験用試薬類400千円、プラスチック器具150千円)を使用する予定である。また、実験と調査に用いるカンモンシロアリを採集するため、山口県小野田市までの旅費が必要になる。さらに同じく実験と調査に用いるアマミシロアリを採集するため、鹿児島県奄美大島までの旅費が必要になる。これらの旅費に250千円を使用する予定である。
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Research Products
(4 results)