2011 Fiscal Year Research-status Report
好塩性アーキアがG+C含量の異なるリボソームRNAを使い分ける可能性の追究
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23657016
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
木村 浩之 静岡大学, 理学部, 講師 (30377717)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 好塩性アーキア / 環境適応 / 生育温度 / 増殖速度定数 / 16S rRNA遺伝子 / G+C含量 / 転写 / 定量RT-PCR |
Research Abstract |
温度変動の激しい環境に適応した好塩性アーキアは、ゲノム上に2個ないし3個の16S rRNA遺伝子を保持している。これらの16S rRNA遺伝子は塩基配列が異なり、且つ、グアニン+シトシンの割合(G+C含量)に差があることが報告されている。一般に、好熱菌は高いG+C含量の16S rRNA遺伝子を有する。一方、中温菌や好冷菌は低いG+C含量の16S rRNA遺伝子を有する。これらの16S rRNA遺伝子の特徴から、好塩性アーキアは日中など高温時には高いG+C含量の16S rRNAを発現させ、夜間など低温時には低いG+C含量の16S rRNAを発現するという仮説を立てるに至った。そこで、本研究課題では好塩性アーキア菌株の生育温度を測定し、さらに、定量RT-PCRを用いて高温から低温までの生育温度における各16S rRNAの発現量を比較することとした。 平成23年度の研究では、16S rRNA遺伝子の塩基配列のG+C含量から好塩性アーキアの生育温度を算出した。まず、好塩性アーキアのモデル菌株を選定し、DNAデータベースより16S rRNA遺伝子の塩基配列を得た。そして、16S rRNA遺伝子の塩基配列のG+C含量を算出した後、16S rRNA遺伝子のG+C含量から生育温度を推定する計算式を用いて、各モデル菌株の生育温度を推定した。その結果、モデル菌株の16S rRNA遺伝子のG+C含量は最大で3%の差があること、16S rRNA遺伝子のG+C含量をもとに推定した生育温度は最大13℃の差があることが判明した。 次に、好塩性アーキアのモデル菌株を幅広い温度にて培養した。その結果、モデル菌株は非常に幅広い生育温度を示した。また、各温度での増殖速度定数が算出され、30℃と45℃付近にて2つのピークが示された。これらの結果から、好塩性アーキア菌株は幅広い生育温度を有することが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度においては、好塩性アーキアに属するモデル菌株を選定し、国際DNAデータベースより各16S rRNA遺伝子の塩基配列を得た。そして、16S rRNA遺伝子の塩基配列のG+C含量から原核生物の各種生育温度を推定する計算式を用いて、好塩性アーキアのモデル菌株の生育温度を算出した。次に、理研JCMより好塩性アーキアのモデル菌株を購入し、幅広い培養温度にてモデル菌株を培養した。そして、最低生育温度、至適生育温度、最高生育温度の特定と最低から最高生育温度までの温度範囲における増殖速度定数を測定した。その結果、好塩性アーキアのモデル菌株の16S rRNA遺伝子のG+C含量は56.1%から59.1%まで、最大3%のG+C含量の差があることが判明した。また、16S rRNA遺伝子のG+C含量から原核生物の生育温度を推定する計算式(Kimura et al., 2010)から算出された生育温度は、16S rRNAの塩基配列によって最大13℃の差があることが判明した。加えて、実際の生育温度を測定した結果、モデル菌株は非常に幅広い生育温度を有し、また、増殖速度定数が高い温度範囲が30℃と45℃の付近に2つのピークを示すことが判明した。これらの結果から、好塩性アーキア菌株は幅広い生育温度を有することが示された。 本研究課題では、(1)好塩性アーキアの生育温度の特徴を明らかにして、他の原核生物と比較する、(2)定量RT-PCRを用いて16S rRNAの発現量を測定する、の2つの目標を設定した。平成23年度は、(1)の好塩性アーキアの生育温度の測定を概ね完了させた。さらに、16S rRNA遺伝子の発現量を測定するための定量RT-PCR用サンプルも回収・冷凍保存している。よって、現在までの研究は概ね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
Haloarculaに属する5種類の好塩性アーキアのモデル菌株(Haloarcula marismortui, H. japonica, H. hispanica, H. argentinensis, H. amylolytica)を20℃から55℃まで5℃間隔にてそれぞれ培養する。モデル菌株の培養は、振とう培養機を用いて180 r.p.m.の速度での振とうした条件下で行う。次に、遠心分離により増殖したモデル菌株を回収する。回収された菌株より全RNAを抽出した後、逆転写反応によりcDNAを合成する。そして、各16S rRNA遺伝子に対して特異的なプライマーセットを用いた定量RT-PCRを実施し、各温度帯における16S rRNA遺伝子の発現量を測定する。そして、生育温度の違いによって好塩性アーキアがG+C含量の異なる3種類の16S rRNAを使い分けているのかどうか、高温時には高いG+C含量の16S rRNAを発現させ、低温時には低いG+C含量の16S rRNAを発現させているのかどうか、検証する。 なお、定量RT-PCRでの定量に必要なコントロールDNAについては、各モデル菌株を至適生育温度にて培養したのち全DNAを抽出し、16S rRNA遺伝子をPCR・クローニングして得られた、各16S rRNA遺伝子がインサートされたプラスミドDNAを使用する計画である。 上記の研究で得られた研究結果は、平成23年度に得られた研究結果と合わせて第28回日本微生物生態学会(愛知県豊橋市)にて発表する。また、その研究成果を学術論文にまとめて、The ISME Journal、Environmental Microbiology, Microbes and Environmentsなどの国際学術雑誌に投稿し、査読を受けた後、掲載する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、好塩性アーキアのモデル菌株を対象としたDNAの抽出、RNAの抽出、PCR、cDNAの合成、定量PCR等を予定している。よって、DNA/RNA抽出キット、cDNA合成キット、PCR用試薬、その他、遺伝子解析用試薬を購入する。また、遺伝子解析に必要なチップやエッペンなどのプラスチック製品も購入する。さらに、化学分析、DNAシーケンス分析に必要な経費も使用する。加えて、国内での学会に参加、情報収集、研究発表するための旅費も使用する計画である。
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