2011 Fiscal Year Research-status Report
哺乳類海馬における新生顆粒細胞の選択的刺激方法の開発
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23657058
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
古川 康雄 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (40209169)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
椋田 崇生 広島大学, 総合科学研究科, 助教 (60346335)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | イオンチャネル / FMRFamide |
Research Abstract |
海馬歯状回における神経新生は、海馬が学習・記憶の座として重要な脳部位であることから注目されており、新生ニューロンの生理機能を研究するために、新生ニューロンを特異的に刺激する手法が望まれる。本研究課題では、軟体動物神経系のみに存在すると考えられるFMRFamide作動性Na+チャネルを分子ツールとすることで、自由行動中のラットにおいて海馬歯状回新生顆粒細胞を特異的に刺激する方法を開発することを目的としている。本年度は、組織化学的に検出できる改変FaNaCの作製、チャネルを哺乳類脳に発現させるための発現ベクターの作製と発現確認、および多点フィールド電位測定用システムの構築を行った。1) FaNaCを組織化学的に検出できるようにするために、チャネル遺伝子末端にタグ(FLAG)をつけた改変チャネルを作製した。改変チャネルのチャネル機能が損なわれていないことを確認するために、改変チャネルのcRNAを合成し、アフリカツメガエル卵を発現系としてチャネル機能を電気生理学的手法で解析した。その結果、特にチャネル機能に異常は認められなかった。また、ドットブロット法により、発現したチャネルを免疫組織化学的に検出できることも確認した。2) 野生型チャネルよりもFMRFamide感受性が高いD552K変異体チャネルを用いて同様なFLAG付加チャネルを作製し、機能発現等を確認した。3) タグ付きFaNaCおよびタグ付きD552Kを組み込んだ哺乳類細胞発現用ベクターを作製した。チャネル発現ベクターを導入した細胞がFaNaCを発現することは、これら発現ベクターをアフリカツメガエル卵に直接注入することで確認した。4) 脳スライス標本において、多点フィールド電位測定を行うシステムを構築した。このシステムを作るために、設備備品費により4連の細胞外電位測定用アンプを購入した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、2年計画で、ラット海馬新生顆粒細胞を特異的に刺激するための手法を開発することを目指して計画されたものである。当初計画では、初年度に、タグ付きFMRFamide作動性Na+チャネルの作製と機能発現実験、哺乳類発現ベクターにタグ付きチャネルを組み込んだ発現ベクターの作製とその機能発現実験、ラット海馬脳スライス標本におけるFaNaCの発現とその機能解析実験(スライス標本における多点フィールド測定とスライスパッチによる単一細胞レベルでの解析)を行う予定であった。 これらの計画のうち、改変チャネルの作製と機能確認、哺乳類用チャネル発現ベクターの作製と発現確認、設備備品費にて購入した多点フィールド測定用増幅器を用いたシステムの構築とチェックまでは行うことが出来た。脳スライス標本での発現実験は、分子生物学的実験が当初の予定よりも時間を要したため、次年度に持ち越すことになった。また、当初は、ウィルスベクターを用いた遺伝子導入法を計画し、この実験研究に必須であるP2,P2A実験が出来る実験室を部局内に設けることを検討したが、本研究課題期間中には無理であることがわかったため、ウィルスベクターを用いる手法は断念することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究実績により、哺乳類脳にFMRFamide作動性Na+チャネル(FaNaC)を発現させる手法の確立を目指す。昨年度の研究成果により、本実験を行うための発現ベクター等の準備は概ね整っている。H24年度は、これらを用いてFaNaCを中枢ニューロンに発現する遺伝子組み換えラットの作出を試みる。海馬領域にFaNaCを発現するラットの作出が可能になったら、このラットを用いた行動実験などの可能性を探ることを目的とする。以下に具体的な研究計画を記す。1) 新生ラットあるいは胎児ラットの海馬領域に、FaNaCを組み込んだ発現プラスミドを注入し、in vivo (あるいはin utero) エレクトロポレーション法により、海馬ニューロンにFaNaCを発現する遺伝子組み換えラットの作出を行う。本エレクトロポレーション法を行うために、遺伝子導入装置を設備備品費にて購入する。2) 遺伝子組み換えラットにおけるチャネルタンパクの発現確認は組織化学的方法により行い、発現したチャネルの機能は、脳スライスを用いた電気生理学的方法で解析する。これらの研究計画は、遺伝子組み換え生物実験におけるP1,P1Aに該当するが、これを行うための施設は所属部局にあるので、問題なく遂行できる。3) FaNaCの発現とその安定性を確かめた後、遺伝子組み換えラットの脳室あるいは海馬内に慢性カニューレを装着し、FMRFamideを慢性投与することによる学習・記憶課題の達成度等を比較する実験を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ラット脳に外来遺伝子を導入するために、遺伝子導入装置(BTX社製、ECM830)を設備備品費にて購入する。この設備備品費が、本年度分の研究費の大部分を占めており、残りは消耗品費とする。本研究課題では、外来遺伝子導入の方法として、ウィルスベクター注入による方法と遺伝子導入装置を用いたエレクトロポレーション法による方法の二つを予定していたが、前述の理由により、ウィルスベクターによる方法が現時点では使えないため、本研究課題を遂行するためには、遺伝子導入装置が必ず必要である。
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