2012 Fiscal Year Annual Research Report
記憶中枢の海馬で♀と♂の性差を分子論的に明らかにする
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23657098
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川戸 佳 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (50169736)
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Keywords | 海馬の性差 / 性差 / 神経ステロイド / 脳ステロイドの性差 / 記憶の性差 / スパインの性差 / シナプスの性差 |
Research Abstract |
記憶・学習中枢である海馬の性差を解明するために、(1)性ステロイド濃度、(2)性ステロイド合成酵素と受容体のmRNA発現量、(3)記憶部位の神経スパイン(シナプス後部)の密度について雌雄の比較を行った。雌は性周期(Proestrus: Pro, Estrus: Est, Diestrus1: D1, Diestrus2: D2)がある。(1)海馬内の性ステロイド濃度には明確な性差があった。海馬の女性ホルモンEstradiol(E2)は、雄(8.4 nM)が雌(0.5―4.3 nM)より高かった。雌の海馬では、E2はProで最大値4.3 nM 、D1で最低値0.5 nM であった。これらの変動は血中の変動パターンと似ているが、海馬の濃度のほうが高かった(E2は血中の40―100倍)ので、E2は海馬で合成されて性周期変動を起こしている。海馬の男性ホルモンTestosterone(T)は、雄は17 nMで雌は1-2 nM であり雄の濃度が高かった。Tは雌で性周期変動をしなかった。 (2) 性ステロイド合成酵素と受容体のmRNA発現は、驚くべきことに性差も性周期に伴う変動も見られなかった。海馬のステロイド合成能は性別・性周期ステージに依存せず、ほぼ一定とみなせる。従って性周期に伴う海馬E2の変動は、血中の変動するPROGを基質として海馬内で生成されたものと考えられる。 (3)海馬神経スパインは性周期に伴って変動した。密度は雄≒雌Pro≒雌D1 > 雌Est ≒ 雌D2 であり、性差が存在した。雌のスパイン密度が高いProとD1は海馬内E2, PROGが最大となるステージであり、海馬内性ステロイドとスパイン密度の変動が一致していた。以上、海馬内で合成される性ステロイドには大きな性差が存在し、それが記憶貯蔵部位であるスパイン密度の性差を決める重要な因子であることが示唆される。
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