2011 Fiscal Year Research-status Report
第二高調波イメージングの応用による神経生理機能解析
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23657106
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
塗谷 睦生 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (60453544)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 第二高調波発生 / 2光子顕微鏡 / SHG / イメージング / 神経 / アストロサイト |
Research Abstract |
平成23年度には、本研究の初年度として、SHGイメージングの生理機能解析への応用に向けた新たな色素の検討と解析系の確立を図ると共に、SHGを用いた生理機能解析の重要な対象としてグリア細胞に着目し、その基礎的性質の解析を行った。 SHGは、その特殊な発生条件からこれまでの観測では不可能であった生理現象の可視化の可能性を秘めている。しかし、これまで行われてきた既存の色素を用いたSHGイメージングでは、SHG計測の精度が低く、それが生理解析への応用を制限してきた。そこでこの現状を打開しSHGイメージングの飛躍的な向上を図るため、SHGに適した新たな色素の開発と応用を試みた。研究協力者らと共に、これまでの色素開発の概念とは全く異なる観点からSHG用の色素の開発に取り組んだ。その結果、新たな色素群が合成され、SHGイメージングにおいてはデメリットとなる2光子励起蛍光を最小限に抑えたままSHGシグナルを発するという狙い通りの性質が確認された。これは次年度以降のSHGの応用による生理学研究の発展を期待させるものとなった。 また、本課題では脳細胞の生理機能解析を最終目標としているが、近年、脳機能に対するグリア細胞、特にアストロサイトの重要性が着目され、その生理的性質の解明が急務となっている。このような状況を受け、本研究においてもアストロサイトの生理機能の解明に向け、SHGイメージングによる電気生理学的解析とその基盤となるアストロサイトの細胞生物学的性質の2光子顕微鏡による解析を進めた。2光子励起顕微鏡と蛍光色素の2光子アンケージングを駆使した研究から、アストロサイト足突起が細胞内外での分子の拡散の制御に非常に重要な役割を果たす事が明らかとなってきた。この結果はアストロサイト足突起が脳の生理学的機能発現に重要な役割を果たす事を示唆するものとなり、今後の解析の指針を与えるものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SHGは分子の励起を伴わない現象であり、よって励起に伴う光毒性がないと考えられる。しかしこれまでの色素ではレーザー照射時にSHG以上に2光子励起が起こり、それによる光毒性が生理解析の大きな妨げとなってきた。そこで、これまでの「より強い蛍光を発する」という一般的な生細胞観測用の色素のデザインとは全く異なり、「より弱い蛍光とより強いSHGを発する」事を目的とした新たなコンセプトの色素の開発を提案し、研究協力者らによりその最初の試みとなる二つのシリーズの色素群が作成された。 これを受け、まずこれらの色素のSHG色素としての特性の解析を行った。分散培養したマウス海馬初代培養神経細胞、初代培養グリア細胞、CHO細胞に新たな色素を細胞外から投与し、1,000nmのレーザー照射により発生する500nmの第二高調波シグナルを2光子励起蛍光シグナルと共に計測した。ここから、第一世代の新色素はSHG特性はこれまで我々が用いてきたFM4-64と同程度であるが、格段に強い2光子蛍光が出る事が明らかとなった。更に第二世代の新色素は、SHGシグナルが十分に出るにも関わらず、2光子蛍光がほとんど見られない事が明らかとなった。ここから、この第二世代の色素が次世代のSHG色素として非常に有望である事が明らかとなった。 次に、脳におけるSHGイメージングの対象としてアストロサイトを考え、SHGによる電位計測の前段階として、計測すべき部位への指針を得るため、その生理機能を2光子励起顕微鏡により解析した。アストロサイト細胞内外における色素の拡散を定量化する事により、血管周囲の足突起がその構造的特徴を活かして生理学的に重要な役割を担っている事が示唆された。これはSHGによる電位計測の対象として足突起が重要である事を示すものとなり、次年度以降の解析の方針を与えるものとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度には、23年度に引き続き新たな色素のSHGへの応用の可能性を模索すると共に、これまでに合成された新たな色素の更なる評価を行う。まず、これらの色素の膜電位応答性を確認する。培養細胞をパッチクランプし、その膜電位を変化させると同時に各色素からのSHGシグナルを計測し、膜電位変化に対するSHGシグナルの変化率を導出し、これまで用いられてきた色素と比較し膜電位のレポーターとしての性能を評価する。次に、2光子蛍光が少ないという特徴による細胞毒性の軽減効果について解析する。膜電位応答性の評価と同様に培養細胞をパッチクランプし、一定強度のレーザー照射による細胞毒性をその静止膜電位の変化として評価する。これらの解析により、これまで合成された新たな色素群のSHG色素としての性能を評価すると共に、更に次の世代の色素合成に対する指針を得る。 次の段階として、これまでの研究から明らかとなってきたアストロサイト足突起の生理機能解析のため、アストロサイトへのSHGイメージングの応用を試みる。マウスから調整する急性脳スライスを用い、アストロサイトをパッチクランプし、そのピペットからSHG色素を細胞内へ導入する。その後細胞体における膜電位を電流・電圧固定法により変化させ、細胞体での膜電位変化のアストロサイト細部への伝播をSHGシグナルの変化計測から解析する。特に足突起における膜電位の動態に着目し、アストロサイト細部における初めての定量的膜電位計測とそれによる生理学の解析を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、実験と共にこれまで得られた結果の論文発表を行い、研究費はこれらの目的のために用いる。平成23年度に着手を予定していた論文投稿が遅れたため、その分の予算を平成24年度に繰り越し、投稿関連費に充てる。実験の方では培養細胞の調製・維持に関わる費用、そして色素の購入費が主な支出となる。論文の方では、投稿に当たっての英文校閲、投稿、掲載、別刷などに関わる諸経費が主な支出となる。
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