2011 Fiscal Year Research-status Report
細胞内共生細菌ボルバキアのオルガネラコミュニケーション
Project/Area Number |
23657133
|
Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
北田 栄 九州工業大学, 情報工学研究院, 准教授 (20284482)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | ウォルバキア / 昆虫 / 共生 / ゲノム / 遺伝子 |
Research Abstract |
ウォルバキアは、昆虫などの節足動物や線虫類の細胞内に共生するα-プロテオバクテリアに属する細菌で、宿主の生殖や発育に大きな影響をおよぼす。しかし、ウォルバキアがどのようにして安定的に宿主細胞内に共生しているのか、その分子メカニズムは分かっていない。はじめに、全ゲノム配列が決定しているウォルバキア4種それぞれの推定タンパク質群のアミノ酸配列データをKEGGデータベースから得た。4種のアミノ酸配列データを全ての組み合わせにおいてBLAST検索を行いidentityが90%以上の配列を選別した結果、4種のウォルバキアのゲノムに共通して保存されている3つの推定タンパク質を特定した。それら3つの推定タンパク質の一次構造からハイドロパシー分析を行ったところ、疎水性領域は少なく、いずれも可溶性のタンパク質である可能性が高いことが分かった。次に、カイコ卵巣由来のBmN4細胞と、ヒメトビウンカを宿主とするウォルバキアに感染したaff3細胞を用いて、培養と継代を行った。まず、ウォルバキアに感染したaff3細胞からBmN4細胞へのウォルバキアの感染を試みた。BmN4細胞にウォルバキアが感染していることを検証するために、ウォルバキアの16S rRNAとftsZ遺伝子に対するPCRと顕微鏡による細胞観察を行い、ウォルバキアの感染を確認した。更に、今回特定した3つの推定タンパク質がウォルバキアのゲノムにコードされていることを検証するために、それぞれの遺伝子に対するプライマーを設計しPCRを行った。その結果、どの遺伝子においても目的のPCR生成物が検出されたため、3つの推定タンパク質がゲノムにコードされていることが確認できた。今回特定した3つの推定タンパク質が細胞内で発現していれば、それらがウォルバキアの共生の分子機構に関係している可能性は高いと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ウォルバキアは昆虫や線虫類の細胞内に共生し、主に宿主の生殖に影響を与える細菌の一属であり、卵細胞を通じて垂直伝播し、宿主の雌雄などを制御している。本研究では『異物である細菌がなぜ安定的に真核細胞内に共生できるのか?』を主目的として、ウォルバキアと核などのオルガネラ間での情報伝達や物質輸送を解明する。ウォルバキアが安定に感染した培養細胞系を構築し、ウォルバキアの増殖・形態を観察する。また、ウォルバキアに特異的な遺伝子を同定することを目的とした。ウォルバキア感染細胞と昆虫細胞は農業生物資源研究所の野田博士より譲渡してもらった。感染細胞を維持したところ、10日程度で細胞同士が凝集した。30日後には細胞の形態は大きく変形し、顕微鏡下で光学密度の高い物体や結晶体のような構造物を観察した。ウォルバキアゲノムのバイオインフォマティクス解析では、ウォルバキアに高く保存された3種類の遺伝子をゲノムの網羅的なBLAST解析から同定できた。これらの遺伝子を前ゲノム遺伝子との相同性解析を行ったところ、他の生物種に高く保存された遺伝子は検出されないため、ウォルバキアの機能に重要な役割を果たしていることが考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)細胞内ウォルバキアとオルガネラの形態蛍光顕微鏡、透過型電子顕微鏡を用いて、ウォルバキア感染細胞と非感染細胞の細胞内形態の詳細な観察を行う。特にウォルバキアの細胞内での分布や各オルガネラとの相互作用を注意深く観察する。(2)マイクロアレイ解析ウォルバキア感染細胞と非感染のコントロール細胞からmRNAを抽出し、sf9細胞遺伝子のマイクロアレイ解析を行う。マイクロアレイ解析は本研究機関では行い得ないため、抽出したmRNAを外部に委託解析する。マイクロアレイの結果は本学部が得意とする情報学を利用して解析し、ウォルバキア感染細胞で発現変化の大きかった遺伝子をクラスター解析により、分類し、代謝系や細胞周期などとの関係を明らかにする。(3)温度感受性細胞株の解析ボルバキアにルシフェラーゼをレポーター遺伝子として組み入れたプラスミドで形質転換を行い、このウォルバキアを動物細胞に感染させる。この細胞に変異剤処理を行い、限外希釈法で単一細胞由来の株化を行う。この細胞の発光反応シグナルを25℃と37℃で観察し、温度感受性細胞をスクリーニングする。このような表現形を示すには、宿主昆虫細胞、共生ボルバキアの2つゲノムでの変異に起因すると考えられる。得られた温度感受性変異細胞の性質を形態観察と上述の研究方法で明らかにする。興味深い表現形の細胞をコレクションし選別する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の使途は大きく以下の通りを予定している。物品費:試薬、血清、ガラス・プラスチィック器具旅費:研究成果発表(学会発表)人件費:研究補助員(パート)の雇用費前年度と研究費の規模はほぼ同じで、大学院生、研究補助員を含めた研究組織規模は大きく異ならない。このため、上記の研究推進にあたっての研究費の使用は前年度とほぼ同じと計画している。
|
Research Products
(4 results)