2011 Fiscal Year Research-status Report
器官形成における運動性繊毛による機械刺激受容機構の解明
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23657141
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
越田 澄人 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40342638)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 細胞・組織 / 発生・分化 / シグナル伝達 |
Research Abstract |
脊椎動物の腎臓は、恒常性維持にかかわる重要な器官であり、その機能の多くは尿細管を構成する上皮細胞でみられる。したがって、機能的な尿細管が発生するための制御機構を理解することが極めて重要である。多発性嚢胞腎(polycystic kidney disease, PKD)は、ヒトをはじめとした脊椎動物にみられる遺伝性疾患で、尿細管や集合管の多数の膨張(嚢胞)とそれに伴う腎不全を引き起こす。尿細管や集合管上皮細胞の増殖や扁平化によって生じると考えられている。PKDの主な原因遺伝子であるPC2をゼブラフィッシュでノックダウンするとPKDが発症することから、魚類でも哺乳類と同様のメカニズムでPKDを発症すると考えられている。我々が同定したメダカ突然変異体kintoun(ktu)は、PKDを発症し、その原因遺伝子ktuは、脊椎動物から単細胞生物まで高度に保存されており、繊毛に運動性をもたらすダイニンの形成に必須である。 Ktu遺伝子が嚢胞形成に及ぼす影響を調べるために、変異体から野生型胚への細胞移植を行ったところ、移植後2カ月の腎臓に生じた嚢胞に変異体由来の細胞が多く存在する傾向が観察された。これによって尿細管上皮細胞に生えている繊毛の運動性が細胞自律的に嚢胞形成に関与する可能性が示唆された。さらに嚢胞形成過程における細胞レベルでの詳細な解析のため、我々はPKD発症に関わる細胞内シグナルである細胞内カルシウム濃度の変化をライブイメージングできるトランスジェニック(TG)メダカの作製を行った。移植実験とこのTGメダカを用いた解析を行うことにより、嚢胞形成のメカニズムの解明が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、実験動物としてメダカやゼブラフィッシュといった小型魚類を用いて腎臓の発生を研究していますが、飼育環境の水質が安定せず、必要な突然変異体やトランスジェニック系統などの実験材料を十分に得られない期間ができてしまったため。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒトのPKDの主な原因遺伝子であるPC1とPC2(Caチャネル)の複合体は、哺乳類では尿細管上皮細胞の感覚繊毛に局在しており、PC1/PC2複合体による正常な流れのセンシングが、細胞の増殖や形態を制御していると考えられている。ゼブラフィッシュのPC2ノックダウンによる機能阻害胚では、左右軸形成異常とPKD発症が起こることから、魚類では運動性繊毛上に局在するメカノセンサー複合体構成分子のPC2が機械刺激受容に関与することが考えられる。そこで、まず魚類のPC2に対する抗体を作製することで、運動性繊毛における局在の有無を明らかにし、機械刺激受容機構への関与についてより直接的に検討する。さらに、野生型と変異体を用いて解析を行い、局在に違いがあれば、変異体原因遺伝子産物が機械刺激受容体との相互作用があることが示される。 発生過程で機械刺激を受容している細胞を同定するために、細胞内カルシウム濃度の変化を可視化できるトランスジェニック(TG)メダカを作製し、共焦点レーザー顕微鏡によってライブイメージングの条件検討を行っていく。野生型と変異体での尿細管上皮細胞でのシグナルの動態を比較することで、発生中の様々な時期および部位での機械刺激受容の重要性が明らかになる。また、機械刺激受容細胞でのPC2の局在を観察することで発生過程での細胞内カルシウム濃度の変動と運動性繊毛やPC2との関係を明らかしていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題では小型魚類を飼育・繁殖し、研究を行っていく。その際、研究に必要となる小型魚類用飼育用循環水槽システムやPCRマシーン・微量高速遠心機・共焦点レーザー顕微鏡などの研究設備は、東京大学理学研究科・動物発生研究室のものを使用するので、研究用試薬などに掛かる消耗品費が主たる研究経費となる。研究用試薬としては、抗体作製・分子生物学実験・タンパク質間相互作用検出実験・アンチセンスモルフォリノオリゴを用いた小型魚類個体における機能阻害実験などを行うのに必要なものなどがあげられる。
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