2011 Fiscal Year Research-status Report
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23657149
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
川口 将史 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, グローバルCOE研究員 (30513056)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 生殖的隔離 / 生態学 / 神経解剖学 / 神経回路形成 / c-fos |
Research Abstract |
生物種間での行動の多様性を生み出す神経基盤を明らかにすることを最終目的として、同一河川内に棲息しているにも関わらず生殖的隔離が成立しているハゼ科硬骨魚類のヨシノボリに注目した。平成23年度はまず、河川で捕獲したカワヨシノボリ(Rhinogobius flumineus)を実験室環境下で飼育し、雄が野生と類似の求愛行動を示すことを確認した。この成果は今後、同種・異種で求愛行動にどのような差が生じるのかを観察し、神経系の活動を解析する上で極めて重要である。また、神経活動依存的に神経細胞内で発現する遺伝子c-fosのカワヨシノボリホモログ(Rfc-fos)をクローニングし、イントロンを含むゲノムの部分配列を同定した。これにより、Rfc-fosのイントロン配列をプローブに用いてin situハイブリダイゼーションを行うことで、求愛行動の際に活動した脳領域を同定することが可能になった。また水槽内で産卵された卵を人工飼育し、発生過程を追跡しつつ孵化まで生育させた。その結果、21℃環境下では受精後2日目に体軸形成、3日目に咽頭胚、7日目には下顎の形成が完了して仔魚の基本形態がほぼ完成し、受精後約2週間で孵化することがわかった。このタイムテーブルは今後、ヨシノボリ種間で神経発生に関わる遺伝子の発現パターンについて比較解析するための礎となる。また、各発生段階で神経系をホールマウント免疫染色にて可視化した結果、受精後7日目の胚で三叉神経や脊髄神経、側線神経などの末梢神経系だけでなく、後交連や内側縦束、中脳視蓋に投射する神経線維など、中枢神経系の神経回路も明瞭に観察することができた。特に、繁殖相手の特定に重要な視覚を司る中脳の神経回路形成を容易に観察できることは、今後の解析にとって大きな利点となり得るだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、今後の解析に必要な実験環境の整備と解析用ツールの作成を行った。カワヨシノボリの捕獲から飼育、実験環境下での求愛行動の再現について、過去の研究で可能であることは報告されていたが、自身の実験系として確立できたことは大きい。また、神経発火応答における最初期遺伝子c-fosのカワヨシノボリホモログのクローニングに成功したことで、求愛行動に際して働く脳領域を同定することが可能になった他、発生過程の胚で中脳視蓋を初めとする中枢神経系の神経回路を明瞭に可視化できることを発見した。これらの解析手法を用いることで、野生動物の行動観察という生態学的研究と脳組織の観察という神経解剖学的研究を繋ぎ、生殖的隔離による種分化をもたらした神経基盤の理解を進めていくことができると期待している。以上の理由から、現在までのところ、本研究はおおむね順調に進展していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
神経細胞の活動からc-fosの発現までに要する時間は、動物種によって差がある。マウスではc-fos転写の開始までに約5分であるが、メダカでは約30分かかる。まず始めに、カワヨシノボリのc-fos転写に要する時間を同定するため、GABA阻害剤であるペンチレンテトラゾールにより神経細胞の強制活性化を誘発し、時間軸に沿ったc-fosの発現量変化を追跡する。また、平成24年度より、愛媛大学から国立精神・神経医療研究センターに異動となったため、愛媛大附属高校の松本浩司教諭に協力を仰ぎ、愛媛大附属高校にてヨシノボリ種の捕獲や飼育を行っていただけることになった。平成24年度以降は、愛媛大付属高校と共同研究を進める形をとり、求愛行動の観察や脳のサンプリングは愛媛大附属高校にて、組織学的解析は国立精神・神経医療研究センターにて進めていく予定である。愛媛県松山市の河川ではカワヨシノボリだけでなくシマヨシノボリ、オオヨシノボリなどについても生育地域が同定されているため、カワヨシノボリ以外の種の雌も飼育し、繁殖期にカワヨシノボリの雄とのお見合いを試みる。同種と別種でカワヨシノボリの雄の神経活動がどのように異なるのか、比較解析を行っていく予定である。求愛行動において同種・別種の判定に関わる脳領域が同定された場合、その領域に神経トレーサーを注入し、神経回路のレベルで生殖的隔離の神経基盤を探っていく。また、神経発生に関わる分子(軸索ガイダンス分子や成長因子、転写因子など)についてクローニングを行い、生殖的隔離に関わる神経回路の形成機構の解明を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の通り、愛媛大附属高校との共同研究を進めるため、平成24年度の研究費では出張旅費に比重を割く必要がある。求愛行動の観察のため、小型ハンディカムの購入も検討している。また、昨年度の末期にカワヨシノボリc-fos遺伝子のクローニング作業が大きく進展していたため、PCR用プライマーの発注に充てるために昨年度の研究費の一部を次年度に持ち越す形となってしまった。持ち越し分に関しては、今年度の研究費と合わせて、組織学的解析に係る試薬類の購入に充てたい。特に、神経トレーサーやin situハイブリダイゼーションのための試薬の購入に重点を置く予定である。また、学会参加を行い、成果発表や情報の収集に努めたい。
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Research Products
(12 results)
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[Journal Article] Nervous system disruption and concomitant behavioral abnormality in early hatched pufferfish larvae exposed to heavy oil.2012
Author(s)
Kawaguchi M*, Sugahara Y*, Watanabe T, Irie K, Ishida M, Kurokawa D, Kitamura S, Takata H, Handoh IC, Nakayama K, Murakami Y
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Journal Title
Environmental Science and Pollution Research
Volume: 19
Pages: 2488-2497
DOI
Peer Reviewed
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