2011 Fiscal Year Research-status Report
雑種弱勢の弱いアリルを利用した病害抵抗性育種の試み
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23658010
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
宅見 薫雄 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50249166)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 遺伝学 / 植物 / 生殖隔離 / 倍数性進化 / 病害抵抗性 |
Research Abstract |
4倍性コムギとタルホコムギを交雑して得られる合成パンコムギは、通常パンコムギに祖先野生種であるタルホコムギの有用遺伝子を導入する際の育種母本として用いられている。しかし両親の持つ核ゲノム間の相互作用により雑種強勢・雑種弱勢・雑種致死などの現象が起こることが知られている。本研究は、この雑種弱勢の弱い症状を示す合成パンコムギ系統において病害抵抗性の上昇が認められるのかどうかを検証することを目的としている。まず、ハイブリッドクロロシスの症状が弱い合成パンコムギ系統と強い系統があるが、これらのDゲノム上の原因遺伝子の同座性を検定したところ同座あるいはかなり密接に連鎖した遺伝子であることが明らかとなった。実際別個にこれらの遺伝子をマッピングしたところ7D染色体短腕の同じ領域に位置づけられた。次にコムギいもち病菌を、クロロシスを示す合成パンコムギ系統と正常の表現型を示す合成パンコムギ系統とに接種したところ、抵抗性反応の出方や病原菌の胞子の回収のされ方でクロロシスを示す合成パンコムギ系統の方がより高い抵抗性を示した。実際一部の病害抵抗性遺伝子の発現量がクロロシスを示す合成パンコムギ系統の方で高かった。さらに、弱いクロロシスを示す合成パンコムギ系統とWTを示す系統のF2集団を用いた測定では第3節間長と登熟日についてのみハイブリッドクロロシスは有意に負の影響を与えていた。これらの結果から、クロロシスの程度の弱い合成パンコムギ系統では、光合成活性の低下は見られるものの農業形質への影響最小限に抑えつつ病害抵抗性をある程度上昇させることが期待でき、栽培地によってはハイブリッドクロロシスを用いて病害抵抗性と生育阻害の間のトレードオフを成立させながらコムギの病害抵抗性育種を行える可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、4倍性コムギとタルホコムギを交雑して得られる合成パンコムギにおいて認められるハイブリッドクロロシスの弱い症状の発現が、農業形質への影響を最小限に抑えつつ病害抵抗性の付与を期待できるかどうか検証するものである。平成23年度の研究を通して、農業形質では第3節間長が短くなり開花が少し遅れることを除けば、統計的に有意な差異を正常系統との間に見出せなかったこと、コムギいもち病菌に対して確かに病害抵抗性の上昇が認められたことから、農業形質への影響最小限に抑えつつ病害抵抗性をある程度上昇させることが期待でき、栽培地によってはハイブリッドクロロシスを用いて病害抵抗性と生育阻害の間のトレードオフを成立させながらコムギの病害抵抗性育種を行える可能性を示唆した。ハイブリッドクロロシスを導入することで病害の発生地においてむしろ有利な品種育成を期待できるのではないかと考えられたことから、本研究の主目的はほぼ達成できたと推察され、あとは、ハイブリッドクロロシスの原因遺伝子を高密度にマップすることを通して、実際の選抜に用いることのできる分子マーカーの開発を目指すことが残された課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
強いハイブリッドクロロシスを示す系統の葉のマイクロアレイ解析の結果から、これまでの正常系統や弱いクロロシス系統との遺伝子発現プロファイルの比較解析を行い、さらにタイプIIIハイブリッドネクローシスとの比較を通して、ハイブリッドクロロシスに特徴的な遺伝子発現変動を明らかにする。平成23年度のサンプルからさらにF2集団300系統を加えて、原因遺伝子座周辺の高密度連鎖地図を作成する。原因遺伝子座周辺のSNPマーカーを増やすために、オオムギの高密度マップ情報(Sato et al. 2009)を利用しながら、SNPの選抜を進め、PCRマーカー化すまた、前年度のDゲノムのSNP情報とオオムギのマップ及びパンコムギのbinマップをもとに原因遺伝子座周辺のSNPを選抜し、マーカー化、連鎖地図上への位置づけを通して、原因遺伝子座周辺の連鎖地図の高密度化を図る。マッピングに用いた集団から原因遺伝子座周辺のマーカーの遺伝子型から原因遺伝子の遺伝子型を推定できる個体を数系統ずつ選抜し、これらに対して23年度と同様に病害抵抗性の解析を行う。これらの結果をもとに投稿論文を執筆し、発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
原因遺伝子座周辺のSNPマーカーの解析が中心となることから、物品費や試薬代などの消耗品費を中心に研究費の執行を計画している。また、論文執筆に際しての英文校閲代などを見込んでいる。
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