2011 Fiscal Year Research-status Report
イネにおける生物的窒素固定の評価とその利用に関する研究
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23658017
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井上 博茂 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (40260616)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 栽培体系 / 生物的窒素固定 / アセチレン還元活性 / 重窒素追跡 |
Research Abstract |
島根大学本庄総合農場の畑地下層より採取した赤色土壌を用いて、イネ品種カサラスをポット栽培した。重窒素標識硫安(10.7atm%)を窒素肥料として施用し、水分条件として畑条件(pF=2.0)および水田条件(常時湛水)の2条件を設定した。イネ出穂期にin situ条件下でアセチレン還元活性(以下ARA)を測定するとともに、イネ栽培終了後にイネおよび土壌中の全窒素保有量および施肥窒素吸収量を測定して、ポットごとの窒素収支を算出した。湛水条件下で栽培したイネにおいて高いARAが認められ、かつ系外からの窒素流入量が多くなることが分かった。これらの結果より、赤色土壌においてイネを湛水条件で栽培することにより、生物的窒素固定の機能が高まることが示唆された。次に、京都大学高槻農場の水田作土より採取した沖積土壌を用いて、イネ品種カサラス、日本晴、C5444および台中65号をポット栽培した。施肥条件および水分条件を赤色土壌と同様として栽培管理を行った。イネ出穂期にin situ条件下でアセチレン還元活性(以下ARA)を測定するとともに、イネ栽培終了後にイネおよび土壌中の全窒素保有量および施肥窒素吸収量を測定して、ポットごとの窒素収支を算出した。またこれらイネ品種について、圃場で栽培(通常栽培)を行い、サンプリングを行った個体についてARAの測定を行った。ポット栽培、圃場栽培のいずれにおいても、出穂後10日目にARAの極大値が認められた。ポット栽培では、湛水条件下でのみ高いARAが観察された。極端に異なる2土壌条件において、いずれも湛水条件下でイネを栽培することにより生物的窒素固定の活性が高まる可能性が示唆された。また、沖積土壌において湛水条件下で栽培した場合に、イネ品種間において生物的窒素固定活性に差異のあることが確認され、その大小関係が、カサラス、C5444>日本晴、台中65号であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イネおよび土壌のサンプル調製ならびに分析に時間を要してしまい、微生物の同定実験を未実施であるものの、予備試験の結果では、土壌からのDNA抽出ならびにPCR増幅産物の確認を行うことができており、また、本実験で供試した土壌のサンプル調整をすでに終えている。圃場栽培イネの評価についても、適切なサンプリング時期および方法について、検討することができたことから、概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
生物的窒素固定能の個体別評価の方法を確立する。イネ栽培終了後の土壌から、DNAを抽出し、PCRによる土壌中微生物の同定を行う。イネ品種台中65号およびC5444の交雑後代F2集団を圃場において栽培し、個体別に出穂日を調査するとともに、出穂後10日目に植物体の一部をサンプリングしてARAの調査を行う。同交雑後代F2集団を個体別にポット栽培を行い、出穂期を調査するとともに、出穂後10日目にin situ条件下でARAを測定するとともに、栽培終了後イネをサンプリングして、乾物重および窒素保有量を測定する。ポット栽培において用いる土壌として、当初は赤色土壌を用いる予定であったが、無機態窒素の吸着によりイネによる窒素吸収が抑制されることが分かったことから、本年は、沖積土壌(水田土壌)および真砂土を用いることとする。圃場におけるF2集団の個体別頻度分布とポット栽培におけるF2集団の個体別頻度分布を比較しつつ、アセチレン還元活性に関する遺伝的解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
土壌からのDNA抽出ならびにPCRによる土壌微生物の同定を行うために執行するべき予算として確保していた分が昨年度未執行残額として生じてしまった。昨年度実施した予備試験については、研究室にストックされていた試薬を用いて行ったために、本補助金からの支出を必要としなかった。本年度では、本試験としてDNAに関連する試験を行うことから、DNAを抽出するための試薬ならびにPCR関連の試薬と、本補助金で購入したゲル撮影装置関連の消耗品の購入のために本補助金を使わせていただく予定である。また、アセチレン還元活性を測定するための消耗品、圃場栽培ならびにポット栽培を行う上で必要な消耗品(プラスチック製ポットなど)の購入をさせていただく予定である。あわせて、作物学会秋季大会(東北大学)において成果発表ならびに窒素固定に関する情報収集のための旅費として支出させていただく予定である。
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