2011 Fiscal Year Research-status Report
水湿生植物のアブシジン酸不活性化経路選択による嫌気環境適応機構の解明研究
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23658018
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
吉岡 俊人 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (10240243)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | アブシジン酸代謝不活性化 / 種子発芽 / 嫌気応答 |
Research Abstract |
本研究の目的は、イヌビエ水田型と畑地型の種子発芽を誘導する‘きっかけ’の実体が、アブシジン酸(ABA)代謝不活性化機構であることを明確にし、水田雑草(水湿生植物)と畑地雑草(中生植物)の湛水状態(嫌気環境)と畑水分状態(好気環境)への適応要因としてのABA代謝不活性化経路選択の一般性や生態的重要性を明らかにすることである。平成23年度は、イヌビエ(Echinochloa crus-galli var. crus-galli)の畑地型と水田型の種子を嫌気条件と好気条件に置床し、ファゼイン酸、ジヒドロファゼイン酸、ABAグルコシルエステル、ABAグルコシドの内生量を分析した。その結果、畑地型種子は好気条件でのみ発芽し、ABA内生量が低下した。一方、水田型種子では嫌気、好気条件とも発芽とABA内生量低下が起こった。また、発芽時に蓄積したABA代謝不活性化物質は、畑地型種子がジヒドロファゼイン酸、水田型種子がABAグルコシルエステルであった。このことは、畑地型種子では酸化経路、水田型種子では配糖体化経路と酸化経路を通じてABAが代謝不活性化されることを強く示唆している。さらに、酸化経路の鍵反応であるABA8’水酸化を阻害するパクロブトラゾール添加によって水田型種子に比べて畑地型種子がより強く発芽阻害された。これは、上記の示唆を支持するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究実施計画は、イヌビエ水田型と畑地型の種子の嫌気条件と好気条件におけるABA代謝物(ファゼイン酸、ジヒドロファゼイン酸、およびABAグルコシルエステ)分析であった。本研究のためには、材料(発芽可能状態にある種子)および分析系(ABAの酸化物質と配糖体化物質の抽出とGC/MSによる定性定量分析)の準備が必要である。材料については、イヌビエ水田型と畑地型の合計4系統を栽培し、採取した種子を後熟させて休眠状態を解除し、発芽率を検定した。分析系については、種子よりメタノール抽出したABA代謝物質を、ファゼイン酸とジヒドロファゼイン酸、およびABAグルコシルエステルに分画する精製操作を確立し、ファゼイン酸とジヒドロファゼイン酸の内部標準用重水素化物質を入手した。また、ABAグルコシルエステルは加水分解してABAとして分析することとした。さらに、これらの物質をメチルエステル化してGC/MS分析する手法を確立した。以上のように、まず実験系の確立を進行させた。つぎに、前項(研究実績の概要)に記載した研究結果を得た。このように、本年度は実施計画にてらして順調に研究が進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度には、ABA代謝系遺伝子解析を行う。ABAの生合成系の鍵酵素は9シスエポキシカロテノイドジオキシダーゼである。また、酸化的不活性化の鍵酵素はABA8’水酸化酵素であり、配糖体化の鍵酵素はABA グルコース転移酵素である。そこで、イネなどの酵素遺伝子DNA情報を参考にして、イヌビエからこれらの遺伝子オルソログの部分鎖長をクローニングしてノーザン分析あるいはリアルタイムPCR分析によって遺伝子発現を解析する。遺伝子発現結果とABA代謝物内生量の結果を総合して、イヌビエがABA代謝不活性化経路を選択することで、発芽時の水分や酸素に適応して水田型と畑地型に生態型分化した可能性を考察する。さらに、水田に生育するタイヌビエとヒメタイヌビエ、畑地や路傍に生育するヒメイヌビエとニホンビエを用いて、種子発芽時のABA代謝不活性化経路選択がヒエ属内の変種や種のオーダーで分化しているかどうかを検討する。平成25年度には、ABA不活性化経路選択で、水田雑草(水湿生植物)と畑地雑草(中生植物)が類別される程度を検定する。検定結果を種の生育環境、生活史や生理特性を考慮しながら解析することで、ABA不活性化経路選択の一般性と生態的重要性を評価する。例えば、水田雑草でも好気条件の中干し時に発芽して灌漑期に嫌気条件下で成育する生活史をもつ種では、幼植物が嫌気呼吸・代謝する系は必要だが、種子発芽誘導のためにABA不活性化配糖体化経路を選択する必要はないというように考える。平成23~25年度の研究結果を総合して、水湿生植物の嫌気環境への適応や進化においてABA不活性化経路選択がどのような意味をもっているかを考察し、公表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に3,150円を使用する予定である。この額は物品費の試薬代が予定よりわずかに減額されたものであるので、平成24年度に同様の試薬を追加購入する際にこれを充当する予定である。
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