2012 Fiscal Year Research-status Report
水湿生植物のアブシジン酸不活性化経路選択による嫌気環境適応機構の解明研究
Project/Area Number |
23658018
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
吉岡 俊人 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (10240243)
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Keywords | 種子発芽 / 嫌気応答 / アブシシン酸 / 植物ホルモン / 代謝不活性化 / ヒエ属 / 湿生植物 |
Research Abstract |
イヌビエ水田型と畑地型の種子発芽を誘導する‘ きっかけ’ がそれぞれ配糖体化経路と酸化経路を通じたアブシジン酸活性化であるかどうかを確定する目的で、アブシジン酸代謝分析、ジベレリン代謝分析、アブシジン酸代謝系遺伝子解析を行うことが平成23、24年度の研究計画である。平成23年度にイヌビエ水田型と畑地型の種子発芽時にそれぞれアブシジン酸配糖体とジヒドロファゼイン酸が蓄積することが判明した。これは、イヌビエ水田型種子が配糖体化経路で、イヌビエ畑地型種子が酸化経路でアブシジン酸を代謝不活性化することを示唆した。 そこで平成24年度は、イヌビエ水田型と畑地型の種子発芽における酸化的アブシジン酸代謝不活性化の働きを検討した。パクロブトラゾールはサイトクロムP450が関与する酸素添加酵素の阻害剤であり、酸化的アブシジン酸代謝不活性化とジベレリン生合成の両者を阻害する。水田型種子はパクロブトラゾール1 mM存在下では発芽しなかったが、過剰量のジベレリンを添加すると発芽が回復した。一方、畑地型種子もパクロブトラゾール存在下で発芽抑制されたが、ジベレリン添加によっても発芽回復が認められなかった。このことから、酸化的にアブシジン酸を代謝不活性化することがイヌビエ畑地型の種子発芽には必要だが、イヌビエ水田型種子では必要ではないことが判明した。さらに、酸化的アブシジン酸代謝不活性化の鍵酵素であるアブシジン酸 8’位水酸化酵素の遺伝子を3種類単離し、EcABA 8ox1、EcABA8ox2、EcABA8ox3とした。これら遺伝子のイヌビエ水田型と畑地型種子におけるこれらの発現をリアルタイムPCRによって調べた結果、種子発芽パターンを説明できる遺伝子ファミリーメンバーはEcABA8ox3であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請全体の研究構想は、平成23、24年度にイヌビエ水田型と畑地型種子のアブシジン酸代謝分析、ジベレリン代謝分析、アブシジン酸代謝系遺伝子解析を行ってアブシジン酸の酸化的代謝と配糖体化代謝を判別できる手法を確立し、平成25年度にイヌビエに2生態型で認められるアブシジン酸不活性化経路選択による嫌気環境適応機構が水湿生植物全体で一般性があるかを検証するものである。 平成23年度にアブシジン酸代謝物を分析し、イヌビエ水田型種子が配糖体化経路でイヌビエ畑地型種子が酸化経路でそれぞれアブシジン酸を代謝不活性化する結果を得た。平成24年度は、パクロブトラゾールとジベレリンの添加により酸化的アブシジン酸代謝不活性化の働きを検定する実験系を確立した。また、イヌビエのアブシジン酸 8’位水酸化酵素遺伝子を単離し、リアルタイムPCRによる発現解析を行った。以上から、当初の平成23、24年度研究計画がほぼ達成されたと自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23、24年度に、イヌビエ畑地型種子が酸化経路でアブシジン酸を代謝不活性化することに対して、イヌビエ水田型種子は配糖体化経路でアブシジン酸を代謝不活性化することで冠水下の嫌気環境でも種子発芽できることが明らかになった。 本申請研究の最終年度である平成25年度は、イヌビエの2生態型を用いて得られた上記の結果が中生植物と水湿生植物で一般的に認められるかどうかを検証する。そのために、水田だけに生育するヒメタイヌビエと畑地や路傍に生育するヒメイヌビエの比較を中心にした研究展開を行う。ヒメタイヌビエとヒメイヌビエは同種内の変種関係にある。さらに、ため池、用水路、水田、畦畔、路傍、畑地に生育する植物から種子を採取し、ヒエ属植物で得られた結果の一般性をさらに広範な植物種で検討する。平成24年度に確立されたパクロブトラゾールとジベレリンの添加系を用いることで、多種での検定が可能である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度8,019円の次年度繰越しが生じた。次年度は当初予定の900,000円から繰越と合わせて908,019円の研究費となるが、繰越しが少額であるので当初計画通りの執行を行う予定である。
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