2013 Fiscal Year Annual Research Report
水湿生植物のアブシジン酸不活性化経路選択による嫌気環境適応機構の解明研究
Project/Area Number |
23658018
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
吉岡 俊人 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (10240243)
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Keywords | アブシジン酸 / 湿生植物 / 嫌気応答 / 種子発芽 / ヒエ属 |
Research Abstract |
水田雑草(湿生植物)の種子が著しい嫌気条件である湛水土壌中で発芽する現象(嫌気発芽)はよく知られており、発芽しつつある種子が嫌気呼吸によってエネルギーを獲得する機構も明らかになっている。しかし、嫌気発芽を誘導する‘きっかけ’は不明である。 畑地雑草(中生植物)では、種子発芽が誘導されるきっかけが、アブシジン酸(ABA)内生量の低下にあり、ABA内生量低下はABA8’‐水酸化酵素が触媒するABA不活性化酸化経路によって起こる。この酵素はチトクロームP450が関与する酸素添加酵素なので、中生植物種子の発芽には数%濃度の酸素が必要である。しかしABAは、酸化経路以外に、反応に酸素を必要としない配糖体化経路を通じても不活性される。 そこで本研究の目的は、種子発芽のきっかけとなるABA不活性化が、それぞれ湿生型植物種子では配糖体化経路を、中生型植物種子では酸化経路を介しているという作業仮説を検証するものである。 日本のヒエ属雑草のうち、ヒメイヌビエは中生型、ヒメタイヌビエとタイヌビエは湿生型であり、イヌビエは種内で中生型と湿生型に分化している。ABA8’‐水酸化酵素の阻害剤であるパクロブトラゾールの投与は、中生型ヒエ種子の発芽を阻害したが、湿生型ヒエ種子の発芽は阻害しなかった。また中生型ヒエ種子では好気条件でABA内生量が低下し、酸化経路産物であるジヒドロファゼイン酸が蓄積したが、湿生型ヒエ種子では、嫌気、好気いずれの条件でもABAが減少し、配糖体化経路産物のABAグルコシルエステルが増加した。平成25年度研究では、パクロブトラゾール投与によって、多くの中生植物の種子発芽が阻害されるが、湿生植物は種子発芽が阻害されないことが判明した。 以上から、上記の作業仮説が実証された。ABA不活性化の酸化経路と配糖体化経路の選択が中生植物と湿生植物の環境適応や分化の最初のステップだと考えられる。
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