2011 Fiscal Year Research-status Report
ニホンナシ自殖系統におけるリンゴ全ゲノム情報を用いた近交弱勢の解析
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23658023
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
井上 栄一 茨城大学, 農学部, 准教授 (90292482)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ニホンナシ / 自殖 / なし中間母本農1号 / S2世代 / 近交弱勢 / おさ二十世紀 / ホモ化 / SSRマーカー |
Research Abstract |
本研究では,‘おさ二十世紀’の自殖後代である‘なし中間母本農1号’をさらに自殖した世代を擬似S2世代とみなして材料とし,ニホンナシでは初の自殖第2世代について圃場における形質の発現,ゲノム構造とその機能の解析を行う. 本年度は,ナシ自家和合性品種‘おさ二十世紀’およびそのS1である‘なし中間母本農1号’そしてその自殖後代であるS2世代について,生育評価とSSRマーカーを用いたホモ化レベルの解析を行った. 22個体の3年生のS2実生を材料として用いた.さらに栽培品種の中から 世代間の遺伝子型の変遷を検討する際の対照品種として‘ゴールド二十世紀’および‘おさゴールド’(擬似F1世代),および‘なし中間母本農1号’(S1世代)を用いた.SSR座としては,ニホンナシ標準連鎖地図および品種識別に用いられている42マーカーを用いた.S2実生22個体は42SSR遺伝子座において,‘なし中間母本農1号’由来のアリルのみを持っていた.このことからS2実生‘1’~‘22’に雑種性は無く,‘なし中間母本農1号’の自殖世代であることが確認された.42遺伝子座のうち,擬似F1世代においては全体の24%(10座),S1世代の‘なし中間母本農1号’において64%(27座),S2世代で69(29座)~82%(37座)の遺伝子座がホモ化していることが明らかになった.S1世代とS2世代の間と比べて,擬似F1世代からS1世代へ進む過程でのホモ化の進行が顕著であった.また,S2世代‘18’においては第5,10,12,15,連鎖群の大部分がホモ化していると推察された.一方,S2世代のホモ化遺伝子座率と1年生実生の樹高の相関係数をとったところ,5%水準で負の相関が確認された。この結果はニホンナシにおいて近親交配が1年生実生の樹高に大きな影響を及ぼすという佐藤ら(2008)の報告を支持するものであった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度までに,本研究における萌芽性の高い材料である‘おさ二十世紀’の自殖第2世代を育成し,その生育評価を開始した.また,ナシSSRマーカーを用いたホモ化レベルの解析を行った.その結果,S2世代の一部の系統においては,極めて高いホモ化程度を示していると推察された.さらに,S2世代のホモ化程度と1年生実生の樹高の負の相関を確認した.これらの結果,今後の計画を遂行するうえでの準備が整った.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度にS2世代を用いて得られた基礎的なデータを踏まえて,以下のような小課題を遂行する予定である.1.S2個体を高接ぎして育成し,開花結実を促進する.2.S2個体について,前年度から開始したSSRマーカーによるグラフ遺伝子型の作製を完了し,各個体ゲノムにおけるホモ化部位および遺伝子型のアノテーションを完成させる.3.S2個体の慣行栽培を前年度に引続き継続すると同時に,表現形質を継続して観察することによって形質の経年変動を評価する.4.リンゴを中心としたバラ科果樹のゲノム研究の成果として報告されている同定済みの遺伝子について,ホモ化部位や遺伝子型が異なるS2個体間での発現量の違いをリアルタイム PCRで検出する
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の推進方策の円滑な遂行のため,圃場における材料管理に用いる資材,およびリアルタイムPCRをはじめとした分子生物学的手法に用いる物品に優先的に研究費を計上する予定である.
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Research Products
(2 results)