2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23658025
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
菅谷 純子 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (90302372)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 果樹園芸学 |
Research Abstract |
本研究では、青色光が果実着色に及ぼす影響について、分子メカニズムを明らかにすることを目的として、ブドウ果実を用いて研究を行った。これまでの研究により、青色光によりブドウ‘巨峰’のアントシアニン蓄積が促進されることが示唆されているが、樹体の影響や、青色光のみの作用についてなど、詳細なメカニズムは明らかにされていない。平成23年度については、ポット植えの‘巨峰’を用いて、LEDにより青色光、赤色光、白色光を単色光としてベレーゾン期以降の果房に照射し、それぞれの光が果皮着色に及ぼす影響について検討を行った。それぞれの果房に光量子量を合わせて照射し、経時的に果粒を収穫して形質およびアントシアニン蓄積を比較した。その結果、青色光を照射した果房の果皮に蓄積したアントシアニン量は、赤色光や白色光と比較して、量的に多いことが明らかになった。また、果皮に含まれるアントシアニンをHPLCでフォトダイオードアレイを用いて、組成を分析した結果、赤色を呈するシアニジン系のアントシアニン量には違いが認められなかったが、青色系のアントシアニンであるデルフィニジンや、マルビジンなどのデルフィニジン系アントシアニンの量が増加していることが明らかになった。また、青色光により、糖蓄積などへの影響は認められなかった。一方、赤色光では、アントシアニン蓄積や、糖の蓄積は促進されなかった。これらのことから、ブドウ‘巨峰’において、青色光は単色光として直接果皮に受容され、F3’5’Hなどの酵素が活性化されることによりデルフィニジン系アントシアニンが蓄積することが示唆された。一方、F3'5'H酵素遺伝子の発現制御を行うプロモーター領域の単離を行うため、‘巨峰’ゲノムより、上流域を含む断片をクローニングした。配列決定を行い、約上流1kbpの断片であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ブドウのアントシアニン蓄積について青色光および赤色光の照射を行い、アントシアニンの蓄積量や組成に影響を与えたことを確認した。ブドウ果皮に直接青色光が作用し、その結果、フラボノイド3'5'水酸化酵素(F3'5'H)の発現が促進され、デルフィニジン系アントシアニンが蓄積することが明らかになった。また、F3'5'H遺伝子のプロモーター領域のクローニングを行い、約1kbpの上流域を含む断片をクローニングしたことを確認した。今回は散光性品種のプロモーターについてクローニングを行ったため、直光性の品種については、今後検討する必要がある。以上のように、当初計画した内容のほとんどについて実験を行うことができた。これらの研究結果は、本研究の目的である青色光による着色促進メカニズムの解明において、青色光制御領域を特定するための重要な手掛かりになるものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成23年度に得られたF3'5'H遺伝子の上流域の中に存在する転写制御因子を検索し、プロモーター活性を形質転換植物を作成して明らかにする。また、上流域の配列から予想される発現制御様式を基に、ブドウの、F3'5'H遺伝子の発現制御に関与するシグナルについて考慮し、in vitroでの果粒着色に対する光などのシグナルとアントシアニン生合成について明らかにする。さらに、光受容体の変異体におけるF3'5'Hプロモーター活性について解析し、光受容とアントシアニン生合成について明らかにしていく。以上の研究は散光性品種と直光性品種で行い、光の受容と着色について品種間で比較し、着色制御を人為的に行うための基礎的知見を得る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
一定の波長の光を照射する実験を行うためのLED装置、機器類に研究費が必要である。また、遺伝子単離、遺伝子発現解析、特に定量PCR関連の試薬類や、プラスミド構築に関わる費用など分子生物学的実験にかかわる費用が必要である。また、組換え植物体を作成するための試薬類や、機器類に研究費を充てる。さらに、アントシアニン分析などの生化学的実験にかかわる試薬類が必要である。昨年度行う予定であったLED照射実験の一部が、夏季の節電などの影響で行えなかったため、昨年度繰り越しをした研究費を今年度の照射実験の機器購入費、試薬購入費等に充てる予定である。
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