2011 Fiscal Year Research-status Report
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23658028
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
森 仁志 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (20220014)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 単為結果 / トマト / pat2遺伝子 / オーキシン |
Research Abstract |
単為結果は受精によらず、着果および果実の肥大が起こる現象である。単為結果性を品種に持たせることは、果実の品質向上と安定な栽培に重要である。単為結果性をトマト品種に付与できれば、オーキシンによるホルモン処理や花粉媒介昆虫を利用する必要もなく、大いに省力化と経費削減につながる。 トマト品種には遺伝的に単為結果性を示す品種が古くから知られている。これまでに、栽培種との交配により、これらの遺伝形質(例えばpat-2遺伝子)を栽培品種に導入する試みが行われ、その結果、単為結果性トマト‘ルネッサンス’のような品種が育種されてきた。現在、単為結果性を付与する原因遺伝子は複数あると推測されているが、その機構を説明できる分子的実体が明らかにされたものはない。オーキシン処理がトマトやナスの単為結果を誘発することは農業の現場で行われていることである。また、様々な園芸作物に、子房で特異的に発現する遺伝子プロモーターの下流に、アグロバクテリウムのオーキシン合成酵素遺伝子iaaMを導入すると単為結果性になるという報告があるなど、単為結果性にはオーキシンによるシグナルが必要であることに疑問の余地はない。 これまでに研究代表者は、非単為結果性トマト‘moneymaker’とpat-2遺伝子を持つ単為結果性トマト‘LS935’の未受粉子房で、それぞれ特異的に発現している遺伝子をサブトラクション法でいくつか同定してきたが、単為結果性の原因遺伝子であると推定できる遺伝子の同定には至っていない。本研究課題では、トマトに単為結果性を付与する原因遺伝子pat-2の分子的実体を明らかにすることで、単為結果性の分子機構の解明を目指す。その遺伝子を非単為結果性作物に導入することにより、単為結果性を付与し、種子なし果実や、着果の安定した作物を作出するための基盤的研究を最終的な目的としている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
単為結果性の‘LS935’で特異的に発現している遺伝子群を同定した。同定した遺伝子群の、非単為結果性の‘moneymaker’ の未受粉子房における発現とゲノムにおける存在を調査した。その結果、少なくとも10種類の遺伝子が、‘moneymaker’では発現しないばかりではなく、ゲノムDNAを鋳型としたPCR解析によって、遺伝子自身がゲノム配列上に存在していない可能性が見出された。そこで、一般的な非単為結果性トマト品種のゲノムDNAを鋳型としたPCRによって、これら遺伝子を検出を試みた。その結果、どの品種からも増幅DNAが得られず、これら遺伝子が単為結果性‘LS935’に特異的な遺伝子であることが示唆された。さらに、これら遺伝子群が‘LS935’の特定の染色体領域に集積していること、すなわち‘LS935’に特異的な染色体領域が存在することが示唆された。 単為結果性トマトと非単為結果性トマトを交配して得た100以上のF2種子を育成したところ、非単為結果性と単為結果性がほぼ3:1に分離することが確認できた。さらに、‘LS935’の未受粉子房で特異的に発現している遺伝子群のF2個体における分布をPCRによって調べたところ、先に同定した‘LS935’特異的な10種類の遺伝子が単為結果性の個体では検出されたが、非単為結果性個体からは検出できなかった。現在、単為結果・非単為結果トマトの交配実験によって、単為結果性トマトに特異的な遺伝子の絞込みをさらに進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究によって、単為結果性トマトで特異的に発現している少なくとも10種類の遺伝子を同定した。さらに、ゲノムDNAを鋳型としたPCR解析によって、一般的な非単為結果性トマトではこれら10種類の遺伝子が検出されず、これら遺伝子が単為結果性‘LS935’に特異的な遺伝子であることが示唆された。なお、‘LS935’は‘moneymaker’を戻し交配して固定したラインであるので、両者のゲノム上の違いは理論的には単為結果性遺伝子pat-2に関わる配列であると推定される。したがって、‘LS935’特異的な遺伝子群が集積したゲノム領域に標的とするpat-2遺伝子が存在すると推定される。 そこで、‘LS935’のBACライブラリーを作成し、同定した‘LS935’特異的な遺伝子群を指標にして、BACクローンを選抜し、それらの配列を決定する。一昨年から、トマトのゲノムドラフト配列がウエブ上で公開されている。決定したBACクローンの配列を公開されているトマトのゲノムドラフト配列と比較する。公開されている配列は非単為結果性品種由来であるため、Pat-2に対応する配列は存在しないと予想される。上記比較によって同定された‘LS935’特異的な遺伝子群の発現を、‘LS935’と‘moneymaker’の花の子房で比較すると、pat-2自身は‘LS935’でしか発現していないはずである。最終的には、その遺伝子を‘moneymaker’に導入して、単為結果性となるかどうかを確認することによって、単為結果性を決定するpat-2の同定を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
申請研究を実施するための研究施設・設備はほぼ整っているため、設備備品の購入予定はない。研究情報を収集するために、関連学会、シンポジウムなどに参加するための旅費(約100千円)を支出する。BACクローンの塩基配列の決定を予定しているが、時間と労力を必要とする塩基配列の決定は、研究室で実施するよりも迅速で、むしろ安価な受託分析を利用する。そのための経費(約400千円)の支出を予定している。残りの経費は、植物育成、遺伝子解析などに使用する消耗品購入経費として使用する。
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Research Products
(1 results)