2011 Fiscal Year Research-status Report
芳香植物の栽培環境による香気ケモタイプの変動とそれがヒトの心理・生理に及ぼす影響
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23658035
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
林 孝洋 近畿大学, 農学部, 教授 (40173009)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 芳香植物 / ケモタイプ / 光質 / 基質 / 酵素 / 揮発成分 / ガスクロマトグラフィー / 前歴 |
Research Abstract |
平成23年度は,ローマンカモミールを用いて光質が葉の揮発(香気)成分組成に及ぼす影響を調査した.園芸用培地を入れた4号のプラスチック鉢で栽培した.1処理区当たり5株を栽培し,ガスクロマトグラフィー(GC)分析は無作為に株を選んで3反復行った.環境調節が可能な室内で,明期16時間・28℃,暗期8時間・18℃で栽培した.光源には白色(W),青色(B),赤色(R)の蛍光灯を用いた.光強度はすべての区で同一(200マイクロモル毎平方メートル毎秒)とした.得られた成果の概要は以下の通りである. 6週間の栽培の間,2週間間隔で3期間の光質を変える9つの処理区(WWW,WBW,WRW,BBB,BWB,BRB,RRR,RWR,RBR)を設けた.最初(第1期)と最後(第3期)の光質を同一にすることにより,揮発成分の生合成が当該処理中の光質のみの影響を受けるのか,前処理の影響も受けるのかを明らかにできる.GC分析の結果,44の揮発物質が検出された.栽培開始4週間後(第2期終了後)と6週間後(第3期終了後)のGC分析結果を比較したところ,ほとんどの処理区において,揮発成分の生合成は前処理の影響を受けた.BBB区とBRB区を例に挙げると,トランス-ピノカルベノールはBRB区の6週間後の含有量(ピーク面積値)がBBB区より有意に低かった.これは,第2期の光質が第3期の生合成に影響したことを示唆している. 揮発成分は基質と酵素によって生成されるが,量的にどちらが変動しても生成量は変化する.光質は両者の生成に影響することが明らかとなった.光質処理は前歴の影響を受けるという本実験の結果については,基質の生合成量は処理中の光質により短時間に切り替わるが,酵素は生成,分解に時間がかかるため,光質が切り替わっても前の光質で(好適に)生成された酵素が残り,前歴として影響するものと考えられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画当初の段階では予想していなかった「前歴」の影響を現象として発見した.処理中の環境条件がケモタイプに及ぼす影響については少なからぬ報告があるが,前歴の影響を考察するための知見はほとんど無い.実験を繰り返し,作業仮説を組み立てるのに研究時間を費やした.研究実績の概要に記述した「基質の生成は短時間で切り替わるが,酵素の生成,消失は時間がかかり,揮発成分の生成に前歴で生じた酵素の影響が長く残る」という仮説は,以降の実験の計画に多くの示唆を与える.ケモタイプ変動のメカニズムをモデル化したことで,以後の実験を論理的に進めることができると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終目的はケモタイプの人為的制御にあるので,上述の作業仮説を基に,多量要素と微量要素,温度,光強度について,1要因もしくは組合せの2要因試験を行う.主要な揮発成分について,生成量の変動を生合成経路と関連づけて検討する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
栽培と揮発成分組成の分析には多くのコストはかからない.当初の予定通り,次年度は官能試験にも着手する.GC分析用のSPMEとPOMS試験紙,アミラーゼ分析用チップ等の消耗品で250,000円,官能検査の被験者への謝金等で200,000円,成果発表のための旅費を150,000円予定している.
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Research Products
(1 results)