2011 Fiscal Year Research-status Report
植物病原糸状菌の感染戦略に必要な細胞内分解システムの探索と応用展開
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23658040
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高野 義孝 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80293918)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 植物病原糸状菌 / 炭疽病菌 / オートファジー / 細胞内分解システム |
Research Abstract |
本研究では、研究代表者のグループによって植物病原性とのリンクが初めて発見された二つの細胞内分解システム(オートファジーシステムおよびPボディシステム)に焦点をあて、病原性糸状菌(ウリ類炭疽病菌)の植物感染戦略における、細胞内分解機構の生理・分子機能の先駆的解明を試みることを目的としている。さらに、病原性に必要な細胞内分解系の動態を、病原菌そのものでイメージングできるシステムの樹立を試みる。本年度は、オートファジー関連遺伝子であるATG1, ATG11, およびATG17遺伝子について、ウリ類炭疽病菌におけるオルソログ遺伝子の同定に成功し、続いて、当該遺伝子について、本菌における標的遺伝子破壊株を作出した。破壊株の解析より、ATG1破壊株は、胞子形成能の顕著な低下を示し、さらに宿主植物への病原性の欠損を示すことを明らかにした。ATG1破壊株の感染行動を調査した結果、ATG1破壊株はATG8破壊株と共通の表現型を示した。一方で、ATG11破壊株とATG17破壊株は野生株と同様の胞子形成能を示し、ATG1破壊株とは異なる表現型を示した。この結果より、ATG17経路およびATG11経路を単独で欠損した場合、胞子形成能には影響はなく、複数のオートファジー経路が、胞子形成について重複して機能していることが推定された。また、ATG24, ATG32については探索した結果、本菌は明確なオルソログ遺伝子を有していないことが示唆された。一方で、Pボディ関連因子であるDCP1およびDHH1について、ウリ類炭疽病菌におけるオルソログ遺伝子の同定に成功した。このうち、DCP1について遺伝子破壊株を作出した結果、破壊株は顕著な生育低下を示し、さらに胞子生産量も劇的に低下していた。また、DCP1破壊株は宿主植物への病原性を失っていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に従い、ATG1、ATG11、ATG17、DCP1、DHH1についてウリ類炭疽病菌のオルソログ遺伝子の同定に成功し、このうち、ATG1、ATG11、ATG17、DCP1について、本菌の遺伝子破壊株の作出に成功している。さらに、計画より前倒して、その遺伝子破壊株の表現型解析を実施し、その結果、ATG1の宿主植物感染への必要性を明らかにし、さらに胞子形成について複数のオートファジー経路が重複して機能することを示唆する結果を得た。また、DCP1破壊株の解析より、DCP1が生育、胞子形成、病原性において重要な役割を果たすことを明らかにしている。本年度の成果により、「オートファジー経路およびPボディ関連経路が、植物病原糸状菌の生活環(宿主感染を含む)においてどのような役割を果たしているか」を理解する上での基礎となる知見、および、必要となる材料(プラスミド、破壊株など)を得ることができた。以上より、本研究は順調に進行していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
研究は順調に進行しており、基本的に今後も当初の計画に従って研究を推進する。まず、ATG11破壊株とATG17破壊株の詳細な表現型解析をおこない、それぞれの因子が関与するオートファジー経路の生理機能を探る。特に宿主植物への感染過程に焦点をあてる。また、各破壊株における選択的オートファジーと非選択的オートファジーの活性について調べ、ウリ類炭疽病菌におけるATG11およびATG17依存的オートファジーの機能を明らかにする。さらにATG11とATG17の二重破壊株の作出をおこない、その表現型を解析する。また、DCP1の破壊株は、NMD(Nonsense mediated mRNA decay)に欠損を有するUPF1破壊株と異なる表現型を示すが、DCP1破壊株において、UPF1依存的なNMDが機能しているかを調べ、両Pボディ関連因子の関係について調べる。また、同定に成功したDHH1オルソログ遺伝子について、ウリ類炭疽病菌における標的遺伝子破壊解析を実施し、その破壊株の表現型について、DCP1破壊株、UPF1破壊株の表現型との比較解析をおこなう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初予定していたATG24, ATG32のオルソログ遺伝子の同定と続く標的破壊解析については、当該遺伝子を本菌が有していないことを示唆する結果を得た。さらに、本年度は、遺伝子破壊株の表現型解析によって各破壊株の性状のアウトラインを掌握することを優先した。その結果、DHH1遺伝子に関する標的破壊解析(遺伝子破壊プラスミド構築を含む)は次年度におこなうことを決断した。これらの結果より、次年度に使用する研究費が発生している。次年度では、当該研究費をDHH1遺伝子に関する標的破壊解析、および、ATG11とATG17二重破壊株の作出(本年度に実施したATG11とATG17の表現型解析の結果に基づき、新たに計画された研究)などにあてる予定である。
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Research Products
(1 results)