2011 Fiscal Year Research-status Report
脱皮行動誘導ホルモン(ETH)による幼若ホルモンの合成制御
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23658044
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
比留間 潔 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (70374816)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 脱皮行動誘導ホルモン / 幼若ホルモン / 脱皮 / 変態 |
Research Abstract |
脱皮行動誘導ホルモン(Ecdysis Triggering Hormone, ETH)はecdysis (moltingの最終段階である皮膚を脱ぎ捨てる行動)時にインカ細胞から分泌されて脱皮を誘導するペプチドホルモンである。我々は終齢脱皮直前に、幼若ホルモン(JH)産生組織であるアラタ体でETH受容体が高発現していることを見いだした。そこでETHのJH生合成に与える影響についてin vitroで検証したところ、アラタ体でのJH合成を強く促進し、またこの促進作用は終齢脱皮の6時間前に最も強くみられた。この時期は終齢脱皮時のJH合成が盛んに行われる時期と一致していた。このことからETHがアラタ体を刺激して幼虫脱皮直前のJH合成のピークを生み出す要因の一つであることがわかった。ETHのJH合成促進効果は、10 pMから濃度依存的に観察された。以上の結果は、行動を支配するホルモンが、発育や変態を支配するホルモンの合成制御をおこなうことを示しており、「脱皮行動」と「発育・変態」という全く別の事象の接点となることを見出した。また幼若ホルモン合成酵素の一つであるacetoacetyl CoA thiolaseをプロモーターとしたETHの受容体を強制発現する組み換えカイコの作成をほぼ完了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
Ecdysisという脱皮行動を引き起こすETHが、発育や変態を支配する幼若ホルモンの生合成の重要な制御要因になっていることを検証し、ETHがJH合成調節に積極的に関与して、脱皮行動ばかりでなく脱皮(molting)、発育、変態をコントールする鍵となるホルモンの一つであるという想定外の結果を得ることができた。この研究は基礎研究としては今まで常識では考えられなかった「脱皮行動」と「変態・発育」という全く別個の事象の接点を見出し、両者を統合的にとらえる新規な学術領域を開き、今後の昆虫内分泌学の方向性を変える重要な研究となり、応用研究としては昆虫発育制御剤使用による発育調節の制御や害虫防除技術開発に新しい考えを供給する。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度研究はin vitroでETHの作用を解析することに重点を置いていた。そこで今年度は実際にin vivoでETHが作用しているのかを調べるために、熱処理によりETHの受容体を下方発現することができる組み換えカイコを作成したので、それを使用して生体内で実際に起きている現象を細かく調べる方法を採る予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
組み換えカイコを維持するために大量のカイコを使用するため、人工飼料の購入、及び研究に使用する一般薬品などの消耗品に主として使用する計画である。またカイコの飼育や研究補助者として学生の雇用を考えている。組み換えカイコを使用しての研究では、Slovak Academy of SciencesのDusan Zitnan博士の援助を得る予定であり、スロバキアへの旅費にも使用する予定である。彼はETHの発見者であり(Science 271, 88, 1996)、この分野において数多くの業績を上げている権威者である。彼を訪問することにより、ETHの血中濃度の計測、組み換えカイコ使用の実験共同で行うことができ、実験結果の解析などについて彼の援助を得ることができる。
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