2011 Fiscal Year Research-status Report
カイコガにおける害虫性フェロモン産生の挑戦とフェロモンブレンド生成メカニズム解明
Project/Area Number |
23658055
|
Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
本 賢一 独立行政法人理化学研究所, 松本分子昆虫学研究室, 専任研究員 (90333335)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 性フェロモン / カイコガ / アワヨトウ / トランスジェニック / 脂質代謝酵素 |
Research Abstract |
カイコガの性フェロモンであるボンビコール(E10,Z12-16:OH)生合成経路では、脂肪酸不飽和化酵素Desat1による連続した不飽和化反応により、16:CoA(パルミトイルCoA)からZ11-16:CoA が生じた後、さらにE10,Z12-16:CoAに変換され、最終的にアシル基還元酵素pgFARによってボンビコールとなる。本研究ではボンビコール生合成量が減少したトランスジェニックカイコガを作製することを目的の一つとしており、そのためにはDesat1およびpgFARをノックダウンさせたトランスジェニックカイコガを作製する必要がある。そこで研究代表者自身が開発したカイコガフェロモン腺で組織特異的に目的遺伝子を発現させる実験系(Moto et al., 2012)とショウジョウバエで既報のインビトロジェン社Gatewayシステムに対応した遺伝子発現抑制用ベクター(pRISE: Kondo et al., 2006, Genes Genet. Syst., 81, 129-134) を組み合わせることにより、カイコガのフェロモン腺でのみ組織特異的に目的遺伝子の発現抑制を可能としうるGatewayシステム対応ベクターpBRD-GW2を作製した。このベクターを用いてDesat1ノックダウントランスジェニックカイコガを作製し、さらに3世代継代飼育したのちGC/MSにてフェロモン成分を解析したところ、16:OH(ヘキサデカノール)に比べてボンビコール及びZ11-16:OHが減少していること、すなわち実際にDesat1がノックダウンされていることが分かった。カイコガを含む鱗翅目昆虫においてフェロモン腺で組織特異的に目的遺伝子をノックダウンした成功例はこれが世界で初めてであり、この方法は従来のdsRNAを体液中に注射する遺伝子ノックダウン法に比べ他組織への影響が無いメリットがある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
カイコガを含む鱗翅目昆虫における遺伝子ノックダウン法としては目的遺伝子に特異的な塩基配列を有するdsRNAを体液中に注射する方法が知られており、大西ら(2006,PNAS,103, 4398-4403)はこの方法によりフェロモン産生関連遺伝子をノックダウンさせることに成功している。しかしながら、この方法ではdsRNAが体液中に拡散しフェロモン腺だけではなくそれ以外の組織にも取り込まれるため組織特異的な遺伝子ノックダウンは不可能であり、また万が一フェロモン腺以外の組織でオフターゲット効果が出てしまった場合、それを調べることは非常に困難である。一方、今回のフェロモン腺で組織特異的に目的遺伝子をノックダウンした成功例はこれが世界で初めてであり、従来の遺伝子ノックダウン法に比べて他組織への影響が無い長所は非常に評価できると考えている。 一方、2011年度はpgFARノックダウンカイコガの作製も試みる予定であったが、まだ成功に至っていない。作製したトランスジェニックカイコガではマーカー遺伝子の発現は確認できており、したがってゲノムにDNAコンストラクトが挿入されていることは確かである。現在失敗の原因を調査中であるが、染色体効果により転写レベルが想定より低下している可能性が考えられることから、再度DNAコンストラクトのマイクロインジェクションをやり直すことを検討中である。 また、アルコールアセチルトランスフェラーゼ(FAAT)遺伝子の単離に関しては新たなスクリーニングにより5個の候補遺伝子を得たものの、塩基配列解析の結果、これらがすべて既知遺伝子であり、FAAT活性を有する可能性は非常に低いと考えられた。これまでに約4,000のESTクローンのスクリーニングを行ってきたが、有力なFAAT候補遺伝子を得るに至っておらず、同定方法を根本的に変える必要があると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
FAAT遺伝子単離に関しては、これまでに作製条件の異なる2種類のcDNAライブラリーを用いてそれぞれ約2,000クローンずつ(計約4,000クローン)についてEST解析を行った。FAATはカイコガ性フェロモン生合成に必要無いことから、カイコガESTデータベースによるBLAST解析およびアワヨトウのフェロモン腺を含む様々な組織を対象としたRT-PCR解析により、得られたESTクローンについて1)アワヨトウでは発現しているがカイコでは発現していないこと、2)RT-PCR解析によりアワヨトウフェロモン腺での組織特異的発現が確認できることを条件にスクリーニングを行ったが、得られたFAAT候補遺伝子はすべて既知遺伝子と相同性があり、FAAT活性を有していない可能性が高いと予想された。そこで現在上記2種類とは作製条件が異なるフェロモン腺cDNAライブラリーの作製を準備しており、今後はこの新しいライブラリーを用いて改めて解析を行う予定である。またEST解析だけでは目標を達成出来ない恐れがあることから、プロテオーム解析によるFAAT同定についても検討中である。 トランスジェニックカイコガ作出に関しては現在の所属研究室でも作出可能ではあるが、実験協力者の退職による人手不足のため進行具合が当初の予定より遅れ気味である。そこでトランスジェニックカイコガ作製に実績がある農業生物資源研究所の瀬筒秀樹博士他との共同研究を現在模索中である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画では今年度内にタカラバイオ社の協力のもと新しいcDNAライブラリーの作製およびEST解析を行う予定であり、この費用として約200万円必要であった。しかしタカラバイオ社でのcDNAライブラリー作製にはアワヨトウフェロモン腺からtotal RNAを150μgも調整する必要があったため年度内に十分量のサンプルを集めることが出来なかった。そのため、新しいcDNAライブラリーの作製およびEST解析を次年度に行うこととした。ESTクローンのBLAST検索により得られたFAAT候補遺伝子についてはアワヨトウのフェロモン腺を含む様々な組織を対象としたRT-PCR解析を行う予定であり、PCR用酵素等の試薬やプライマーDNAの合成、チューブ等のプラスチック製品購入の費用として約20万円必要である。さらにRT-PCR解析によるスクリーニングで選抜したFAAT候補遺伝子についてはインビトロジェン社のBac-to-Bacバキュロウイルス発現系を利用して酵素活性を調べる予定であり、Sf9細胞培養用の液体培地やプラスチックシャーレの購入費用およびフェロモン前駆体脂質化合物の合成費用として約15万円、またGC/MS解析による酵素活性測定に必要なヘキサン等の抽出溶媒や窒素ガス等の消耗品購入費として約25万円必要である。研究成果については日本農芸化学会での口頭発表および海外科学雑誌での誌上発表を予定しており、その費用として計20万円必要である。
|