2011 Fiscal Year Research-status Report
多孔質鏃を用いたメタゲノミクス~環境影響評価からスクリーニングまで
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23658067
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
中島 敏明 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (80241777)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 環境微生物 / メタゲノム / 微生物スクリーニング |
Research Abstract |
メタゲノムスクリーニングは通常の培養法によるスクリーニングではアクセスすることのできない難培養性微生物ゲノム等にもアクセス可能な非常に有用な手法である。しかしながらメタゲノムスクリーニングでは環境中の全遺伝子をターゲットとするため、目的とする有用遺伝子をスクリーニングするためには多大なる労力と経費を必要とする。したがって、これを軽減した効率的なスクリーニング方法の導入が重要な課題となっている。 申請者はこれまでに、多孔質素材でできた鏃(やじり)を用いる手法が開発した。この鏃を土壌に埋設し、内部に試料を添加することにより、鏃表面及びその周囲の微生物叢が試料特異的に変化する。これを用いることで、メタゲノムスクリーニングにおいて前段階としての効果的な目的遺伝子の集積が行うことが可能であると考えられる。 これまでの予備検討で、土壌に直接試料を添加した系に比べ、鏃の内部に試料を添加した系でT-RFLP解析において数多くのピークが確認されている。これは添加試料が毛細管現象により徐々に内側から鏃表面に染み出していくため、長期的に目的微生物を集積されるためであると考えられる。しかしながらこの研究で用いられた鏃(以下、旧型鏃)には、液体試料の保持時間に問題があった。そこで、今年度は鏃の添加試料の浸透を抑制するため構造が異なる新規鏃を開発した。 滅菌土壌に旧型鏃の鏃、および新規鏃を埋設し、試料としてテトラデカン、およびフェノール水溶液を添加した。その後定期的に鏃表面に付着した土壌を採取し、鏃から浸透した試料の測定を行った。その結果テトラデカンおよびフェノールそれぞれの浸透量の検討において、どちらも旧型鏃と比べて新規鏃のほうが長期間添加試料を保持できることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで研究に用いていた鏃は、粘土と一緒にコーヒー粕を練り混ぜて焼き上ることで、コーヒー粕の焼失した部分が多孔質な構造を形成している。ゆえに、この構造を透過して添加試料が早期に拡散してしまう。そこで、試料添加時に(1)寒天による固化(2)珪藻土への吸着(3)高分子吸収剤による吸着、を試みたが、どれも試料の拡散をコントロールするには不十分であった。このため、鏃の添加試料の浸透を抑制するため構造が異なる新規鏃を開発した。形成にコーヒー粕を用いない新規鏃は、緻密な構造をとっているので添加試料を長期間保持することができた。また、これを用いた実験室レベルでの微生物叢の検討を行った結果、特異的な微生物叢の形成を確認した。以上のことからおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
試料として性質の異なる原油サンプル(重質油および軽質油)を用いて、原油の種類が微生物叢に与える影響の違いについて検討する。土壌に鏃を刺し、微生物叢の安定を待って各種原油を内部に添加する。一定期間ごとに鏃を取り出して、表層からDNAを抽出して16SrDNA及び、Alk、C12O遺伝子を増幅し、定量PCR-T-RFLP、DGGE法にて微生物叢の群集構造を定性的・定量的に解明し、汚染原油の種類と微生物叢への影響を比較する。さらに、本方法のメタゲノムスクリーニングへの応用(新規有用酵素遺伝子の取得)を試みる。ターゲットとしてリパーゼや芳香族オキシゲナーゼ等の有用酵素を設定する。リパーゼは産業的に重要な酵素であり、近年では油脂系バイオマスの有効利用への応用が期待されている。また、芳香族オキシゲナーゼは精密有機合成の触媒として機能性液晶や導電性ポリマー、医薬品の生産に有用である。試料としてラード(リパーゼ)、およびナフタレン(芳香族オキシゲナーゼ)等を用いる。実際には難培養性微生物は、たとえ集積されたとしてもそのDNA量は少ない。このため、そのままではショットガンクローニングに必要なDNA量を得られない。そこで、得られた遺伝子全体をwhole genome amplificationに供して増幅後、大腸菌等に組み込み、生育した形質転換体を発色基質(p-ニトロフェニル脂肪酸エステルやカテコール)を加えた96穴検定プレートに植菌し、マイクロプレートリーダーにて候補クローンを選別する。得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
量PCR-T-RFLP、DGGE法に必要な試薬の購入に使用する。また、成果をまとめて学会や学術雑誌への公表を進める。このための資料整理に関わる人件費、旅費として使用する。
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