2011 Fiscal Year Research-status Report
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23658090
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉村 徹 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (70182821)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 発酵熱 / 藍 / Klebsiella / Pantoea |
Research Abstract |
微生物が関与する発酵過程では発酵熱が産生される。発酵熱は有機物の酸化分解に伴って生成すると考えられているが、その意義や詳細な機構については未だ本質的な理解がなされていない。本研究では、発酵熱産生の機構や意義を明らかにし、最終的には熱発生の制御を可能とすることを目的とする。本研究では発酵熱産生のモデル系として、藍染めを行う過程のすくも作製時に産生される発酵熱の生成過程を解析した。発酵熱産生に必要とされる栄養源の検討や、発酵過程における菌叢解析と微生物の単離・同定を行った。 発酵熱産生は適量の乾燥藍葉に水を加え、その後の温度変化を測定することで確認した。発酵終了後の、温度上昇が認められなくなった残渣に、藍葉や桑の葉、グルコースもしくはカザミノ酸を追加したところ、いずれの場合にも再度の温度上昇がみられた。この結果、藍葉における発酵熱の産生には藍葉に特有な成分は要求されず、グルコースやカザミノ酸などの一般的な培地成分でも代替可能であることが示唆された。 次に、発酵の進行に伴う菌叢の遷移をDGGE(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis)法によって解析した。その結果、Pantoea agglomerans 、Sanguibacter marinus 、Pseudomonas alcaligenesの近縁種の存在が確認され、温度上昇に伴いPantoea属細菌が優位となることが示された。 本研究ではまた発酵中の藍葉から菌の単離を試み、その熱産生への寄与を検討した。11種類の菌を単離し、これらが7種の属に分類されることを確認した。グルコース、カザミノ酸培地における熱産生能を検討した結果、本条件でKlebsiella属とPantoea属の近縁種が熱産生能を示すことを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、(1)メタゲノムの手法を用いた発酵熱生産菌の解析と発酵熱発生の実験系の確立、(2) 発酵熱測定法の確立および菌種・培地と発酵熱の相関解析、(3)脱共役タンパク質UCPおよび植物での脱共役タンパク質の候補と考えられるAlternative Oxidase (AOX)のE. coliでの発現と発酵熱産生への影響の解析、の3つを研究課題とした。(1)については、藍葉を用いることで実験室で安定的に発酵熱生産を行う系を確立できた。またメタゲノムの手法を用いて、Klebsiella属とPantoea属の近縁種など発酵熱生成菌を検出した。(2)については発酵熱を、培地温度の直接的な計測、およびAntares 0201 微生物計測システムによる代謝熱測定の2方法で計測することに成功した。(3)については現在AOX遺伝子の入手を試みているところである。このように(1)と(2)については完全に当初の目的を達成した。(3)については研究が進行中であるが、本年度の研究において、ある条件下で発酵熱を生成する微生物と生成しない微生物が存在すること、発酵熱生成は培地によらないこと、の重要な知見を得ることができた。このことから当初の予想を上回る成果が得られたものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、まず発酵熱生成菌と非生成菌のそれぞれについて、代謝熱測定により発酵熱生産性を定量的に評価し、菌体の生育と発酵熱生産を比較することにより、菌体形成へのエネルギーフラックスと発酵熱生成に向かうエネルギーフラックスの比を明らかにする。これにより発酵熱生成菌では発酵熱生成に向かうエネルギーフラックスの比が非生成菌に比べ高いのかどうかを明らかにする。それぞれの菌においてこの比が変わらなければ、発酵熱は微生物によって起こる化学反応に伴う一般的な発熱反応と結論できる。一方、発酵熱生成菌では発酵熱生成に向かうエネルギーフラックスの比が特異的に高いとの結果が得られれば、熱生産を行う微生物が存在するとの結論が得られる。なおこの実験では、代謝熱測定を行う半固体培養の状態で、どのように菌体の生育を測定するかという技術的な課題を解決する必要がある。平成24年度はまたAOX遺伝子を大腸菌や酵母に導入し、発酵熱生産性の向上を試みる。また大腸菌のATP 合成酵素の変異を行い、発酵熱生成への影響を解析する。これらの結果、発酵熱生成の増加が認められた場合は、ペルチェ素子等による発電を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の多くは、微生物の培養や計測のための試薬、あるいは遺伝子工学用の試薬等、消耗品に用いる。さらにこの研究で用いるAntares 0201 微生物計測システムは「けいはんな」の研究機関にあるものを使用するため、旅費としても使用する。
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