2011 Fiscal Year Research-status Report
永続投与のいらない「夢の21世紀型免疫抑制剤」創製への挑戦
Project/Area Number |
23658093
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
河本 正次 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (90294537)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 拒絶反応 / 制御性T細胞 / 免疫抑制抗体 / 国際情報交流 |
Research Abstract |
臓器移植において免疫抑制剤の投与は必須であるが、現行薬剤には永続投与の必要性と副作用の問題がある。研究代表者はラットの肝移植モデルに見られる免疫抑制剤なしに臓器が自然生着する現象の免疫学的メカニズムを解明し、術後の同ラット血中に新規の免疫抑制抗体が誘導されていることを発見した。本研究では、この生体に元来備わっている拒絶反応回避の仕組みを応用し、一度きりの投与で安全かつ効果的な臓器移植を実現させる「夢の21世紀型免疫抑制剤」の創製に挑戦すべく、本免疫抑制抗体の薬効試験と作用機序の解明を行うことを目的としている。 本年度はまず、研究代表者が作製した拒絶反応抑制抗体(anti-H1 抗体)の薬理作用を規定する標的細胞の検索を試みた。本抗体がT細胞に作用して免疫抑制作用を発揮しうるとの先行知見に鑑み、その活性化T細胞に対する効果を検証した。その結果、本抗体はアロ混合リンパ球反応ならびにT細胞抗原受容体(TCR)架橋刺激に伴うT細胞の活性化を著明に抑制することがわかった。興味深いことにanti-H1 抗体によるT細胞活性化抑制機序にはその抗体濃度により二相性が観察され、sub-optimal doseにおける抑制作用の発揮には制御性T細胞(Treg)が必要であること、一方、high doseにおいては本抗体がconventional T細胞(Tcon)に直接作用してTCRシグナル伝達経路を負に調節していることが示唆された。また前者のTreg依存的な免疫抑制作用の発揮にもTconの存在が必要であることがわかり、本抗体の薬理作用を担う主要な標的細胞がTconであることが明らかとなった。更に、anti-H1 抗体のin vivo薬理試験の一環としてラット心移植モデルへの投与試験を実施した結果、有意なグラフトの生着延長効果を認めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、anti-H1抗体の免疫抑制作用機序解明への足がかりとして、そのT細胞に対する制御性活性の発現を担うプライマリーターゲットがTconにあることをつきとめ、本抗体の標的抗原を同定する上で必須な細胞ソースを絞り込むことができた。更に予想外にも、本抗体のT細胞活性化抑制機序にTreg依存性および非依存性からなる二相性のメカニズムがあることも判明し、本研究の着手時には想定し得なかった創薬シーズを新たに発見できる可能性も広がってきた。また、anti-H1抗体のin vivo免疫抑制活性の検証においても概ね想定した成果を上げることができた。以上、本年度においては当初目的通りの達成度を得ることができていると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度にて明らかとなった免疫抑制抗体の標的T細胞サブセット(Tcon)から、その免疫抑制シグナルの起点となる標的抗原を同定する。アプローチとしては初代Tconをソースとした細胞表面抗原のプロテオーム解析のほか、本抗体と高反応性を示すT細胞株を用いた同様の解析からも平行して抗原の同定作業を進める。目的の責任抗原であるか否かの検証には、Tconにおける同分子のノックダウンに伴うanti-H1抗体の免疫抑制活性の減退、あるいは過剰発現による当該活性の亢進を指標として用いる。更に標的抗原からTCRシグナルの阻害につながる新規の免疫抑制シグナル伝達経路があるのか、また、同抗原架橋シグナルがいかにしてTreg依存的な免疫抑制活性をも調節しうるのか、その分子機構の解明にチャレンジする。更にanti-H1抗体のin vivo薬理活性を引き続き検証すべく、これをラット同所性肝移植モデルに投与してドナー肝の生着延長が認められるか否かを確かめるとともに、その延長効果が免疫抑制剤を必要としない寛容肝移植モデルに見られるそれと匹敵しうるのか否かを比較解析する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費としては物品費(1,100,000円)および旅費(200,000円)を計上しており、前者は本研究実施に係る消耗品費として、後者は国内における情報収集旅費として使用する計画である。なお、本年度研究費には東日本大震災の影響による研究打ち合わせ出張の取りやめに伴う残額(99,705円)が生じており、同経費は次年度の研究打ち合わせ用国内旅費として使用する計画である。
|