2012 Fiscal Year Research-status Report
ヒト苦味レセプターTAS2Rの遺伝子多型と肝臓解毒酵素発現の個人差の関連性解析
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23658106
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
駒井 三千夫 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80143022)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白川 仁 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40206280)
後藤 知子 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (00342783)
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Keywords | ヒト苦味レセプター / 遺伝子多型 / 肝臓解毒酵素 / GSTs / 苦味感受性の個人差 |
Research Abstract |
研究の着想は、ブロッコリー等のアブラナ科植物の摂取量が少ない被験者集団で各種の発がん率が高いというヒト疫学データにある(Nutr. Cancer, 2007など)。アブラナ科植物に含まれるisothiocyanate類には苦味があり、この苦味を強く感じ過ぎて摂取しない人で発がん率が高いことが示唆される。すなわち、発がん率の高い人では、(1) 植物体isothiocyante類の苦味成分を受け入れられないほど苦味感受性が高いことと(苦味レセプターTAS2Rの遺伝子多型)、(2) 肝臓等でのこの植物由来物質の解毒化・無毒化の酵素の遺伝子多型の両方が関係しているのかもしれない。この(1) と(2) を明らかにすることが本研究の目的である。 24年度は、苦味物質の官能検査と苦味レセプターの一塩基多型の関連性の研究手法を確立できた。具体的な苦味物質として3種類のジペプチドGly-Phe、Gly-Tyr、Ala-Trpと、代表的な苦味物質であるPROPやブロッコリー抽出液等を用い、gLMS法により苦味強度を評価した。TAS2R遺伝子の解析では、被験者の口腔内粘膜細胞からDNAを調製し、TAS2R1, 4, 19, 38, 44, 45等をPCRにより増幅した。研究手法は確立できたものの、残念ながらブロッコリー抽出液に応答するTAS2Rは同定できなかった。しかし、カフェイン等の他の苦味との応答性は認められた。すなわち、TAS2R44、45のハプロタイプを解析した結果、TAS2R44では3つのハプロタイプ(WMVI、RLAV、RMAV)、TAS2R45で2つのハプロタイプ(CMHLCTW、YVQFRR*)が観察された。これらの組み合わせにより、被験者48人は3種類の遺伝子型に分類することができた。肝臓解毒酵素のGSTsの多型については、ようやく解析を開始し始めている状況にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
24年度の検討により、TAS2Rに関しては、ブロッコリーの苦味感受性を分類することはできなかった。しかし、グレープフルーツに対して感じる苦味の程度とGly-Tyrの苦味感受性の間に関係性が見られた。文献の欧米人においては、TAS2R19の299番目のアミノ酸がシステインホモである被験者は、グレープフルーツジュースに対する苦味感受性が高く嗜好性が低い (J.E.Hayes et al.,2010) という報告があることから、TAS2R19の299番目のアミノ酸によって被験者を群分けし、各苦味物質に対する苦味感受性を比較した。その結果、299番目のアミノ酸がシステインホモである群が、システインとアルギニンのヘテロである群と比べると、Gly-Tyrに対する苦味感受性が高い傾向が見られた。しかし、今回の結果では欧米人とは異なるデータが得られた。SNPの位置については、細胞内C末端近傍部位に存在しており、この位置のSNPはシグナル伝達に関与している可能性が考えられた。引き続き、isothiocyanate類について検討している最中である。また、GSTsの遺伝子多型の解析は開始した段階にあり、計画よりも遅い状況となっている。 震災の影響を受けたドクターコースの学生の研究進行が悪く、最後には経済的理由のためにバイトが可能な医学研究科に転研究科せざるを得なかった。このため、当研究は進展が悪かった。幸い25年4月から新ドクターコースの学生が入り、既に予備試験を行っている。今後、アブラナ科植物由来のisothiocyanate類を用いた検討は25年度に実施することになっている。積み残しの1) Isothiocyanate類の苦味レセプターの同定と遺伝子多型(SNP)の解析、2) GSTsの遺伝子多型の解析を始めている。現在までの達成度としては、予定よりも10ヶ月ほど遅れている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度の予定であった下記事項も、文献的な探索を終えて、具体化するところまで来ている。しかし、10ヶ月ほどの遅れではあるがTAS2Rとほぼ同じ手法で肝臓での代謝酵素(GSTM1及びGSTT1)の遺伝子多型の解析に移りつつある。すなわち、1) Isothiocyanate類の肝臓代謝処理酵素(GSTM1及びGSTT1)の遺伝子多型解析を行った後に、2) TAS2R 19, 38, 44, 45, 49の個人差とGSTM1及びGSTT1の個人差の関連性の解析を行う。 一昨年ドイツのMeyerhofらの論文が出され、当所予定していた刺激性をも有する苦味物質であるアブラナ科植物由来の成分(sulforaphane, allylisothiocyanate等)は、候補のTAS2Rファミリーが提案されてきたが、我々は必ずしもそれで決定だとは判断していない。何故ならば、上述の23年度の成果より、TAS2R4などのヒト苦味受容体の一塩基多型は人種間で異なり、欧米人と日本人とでは大きく異なっていることが推察されたためである。また、Meyerhofらの検討はHEK293T細胞にヒトTAS2R遺伝子をトランスフェクションした実験系での検討に過ぎず、我々のヒトDNAサンプリングの実験系での実際のTAS2Rの遺伝子多型を扱った検討とは言えない。 そこで、25年度はアブラナ科由来の苦味物質(Isothiocyanate類)のTAS2Rリガンド活性を調べ、同様の手法で可能な肝臓での代謝酵素(GSTM1及びGSTT1)の遺伝子多型の解析に移ることができている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
解析の具体的内容は以下の通りである。物品費(試薬代、小器具代)としてのみ使用する予定である。 1) Isothiocyanate類の肝臓での代謝酵素(GSTM1及びGSTT1)の遺伝子多型解析 2) TAS2R 19, 38, 44, 45, 49の個人差とGSTM1及びGSTT1の個人差の関連性の解析 3)アブラナ科植物の調理法の違いによるisothiocyanate類の濃度変化と苦味の変化、並びにmyrosinase活性変化と摂取後の尿中排泄変化の計測(ヒト被験者及びラット)
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