2012 Fiscal Year Research-status Report
分子間水素結合制御による新規バイオリファイナリー技術の創生
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23658142
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
河本 晴雄 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (80224864)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂 志朗 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (50205697)
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Keywords | バイオマス / バイオリファイナリー / ケミカルス / 液体燃料 / 熱分解反応制御 |
Research Abstract |
今年度は主に以下の2つの研究を進め、成果が得られた。 まず、①分子間水素結合の重要ではない“気相”では、糖類は通常の液・固相での熱分解とはことなる機構で熱分解されることが、予想された。そこで、セルロースを含むバイオマスのガス化における重要な中間体であるレボグルコサン(1,6-anhydro-β-D-glucose)を気相のみで熱分解させる装置(エバポレータ部と熱分解部より構成)を新たに設計・試作し、気相でのレボグルコサンの熱分解挙動について検討した。その結果、通常の熱分解温度である240℃よりもはるかに高温の550℃程度までレボグルコサンは気相では安定であり、600℃以上の高温域では、ガス(主としてCOとH2)とC1~C3のアルデヒド類を主として与えることがわかった。なお、通常の液・固相での熱分解での主生成物であるチャ-(炭化物)、フラン類、ケトン類は全く生成が認められなかった。これらの成果は、糖類を気相に保って熱分解することで、分子間水素結合による酸性触媒作用がなくなることで、糖類を焦がすことなく選択的に低分子ケミカルスへと変換できることが示唆され、バイオマス資源の高効率的なケミカルス、液体燃料への変換につながるものである。なお、生成ガス(COとH2)から合成石油の製造が可能である。 次に、②結晶性高分子であり、溶媒に不溶なセルロースへの応用を考え、種々の非プロトン性溶媒(高沸点溶媒)および一部プロトン性の部分を持つ溶媒を用い、これらの中でのセルロースの挙動について検討した。その結果、非プロトン性溶媒のみでセルロースを効果的に熱分解することは困難であることが示唆される結果が得られた。これについては、セルロース微結晶の表面構造などが影響している可能性があることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までの研究で、非還元糖である、グルコース、マンノース、ガラクトース、キシロース及びアラビノースのメチルグリコシド類が、水素結合を抑制する非プロトン性溶媒であるポリエーテル中で熱安定化され、還元糖類のみならず、非還元糖類も分子間水素結合を阻害することで、糖の代表的な熱分解反応である、熱重合(グリコシル転位反応)および脱水反応[フラン類、チャ-(炭化物)を生成]が全く進行しなくなることが確認された。これにより、分子間水素結合によるプロトン供与が酸性触媒として作用するという研究代表者らの新たな提案が支持された。また、これらの成果を踏まえ、今年度は、水素結合の重要でない気相でのレボグルコサンの熱分解挙動を液・固相での挙動と比較して明らかにした。これにより、具体的に水素結合制御を行なう熱分解場の一つとして気相での熱分解が有効であることが示された。また、このような熱分解制御を最終的にはセルロース系バイオマスへと応用することが重要な課題であるが、本年度はその検討が開始され、低分子糖類と結晶性高分子であるセルロースの違いを明確にすることができた。以上より、研究の目的に対して”おおむね順調に進展している”と判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の実施計画に沿って、研究を継続して進める。現在、水素結合制御に利用可能な熱分解場として、ポリエーテル、芳香族化合物などの非プロトン性溶媒中での熱分解、および気相での熱分解が可能であることを見出してきた。今後は、セルロースへの応用を含めて、これらの具体的な熱分解制御への適用について研究を進めるとともに、平成24年度に導入された赤外線顕微鏡(別経費で導入)を用い、高温でのIn Situでの観察を通して、機構解明をさらに進める。また、リグニンについても同様に、分子間水素結合が熱分解を進める上で重要な役割を果たしているかどうかについて検討を行なう。これらの研究を通して、有用ケミカルス、液体燃料の生産につながる新規なバイオリファイナリー技術開発の研究分野として“分子間水素結合制御”の確立をはかる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、物品費については、熱分解制御に使用する溶媒、試薬類及びガラス器具類の購入にその多くを使用する予定である。なお、赤外線顕微鏡を用いた検討では、水素を重水素置換する方法論を採用することを考えており、その為の重水素化試薬の購入もこれに含まれる。また赤外線顕微鏡観察に使用する窓枠材の購入も予定している。 旅費については、セルロース学会、木材学会などの国内学会への参加費用としての使用を予定している。 人件費については、文献調査、資料整理などの業務に使用する予定である。 その他については、主なものとして学術雑誌への投稿時に、英文校正費用として使用する。
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Research Products
(8 results)