2011 Fiscal Year Research-status Report
超雄・超雌作製と早期性判別を実現するための性連鎖DNA配列段階的同定法の確立
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23658153
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
井尻 成保 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 准教授 (90425421)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 性統御 / ティラピア |
Research Abstract |
本研究では、魚類の性連鎖DNA配列を同定する方法の確立を目指し、ゲノムサイズが比較的小さいナイルティラピアで技術的検討を行う。先ず、ゲノムDNAサブトラクション法を利用して段階的に性特異的配列を同定する新たな方法を試行する。同時に、性連鎖DNA領域に存在し、性決定期に発現することで生殖腺の性を決定する遺伝子の探索を行う。得られた候補配列の性連鎖を調べる。 これまでにゲノムサブトラクションとAFLP法を組み合わせた段階的性連鎖DNA配列同定法において特定した候補配列について、子世代の検定を行った。その結果、子世代では候補配列の有無と表現型性が一致しない例が出現することが明らかとなり、AFLP法で特定した候補配列は組換えを生ずると考えられた。今回の検定でAFLP法による候補配列同定の試行は終了し、今後、ゲノムサブトラクションライブラリーの解析は次世代シーケンサーのみで行うこととする。 メダカでみられるような性決定期の生殖腺で性特異的に発現する性連鎖DNA配列の探索を行う上で、ティラピアの性決定期を厳密に検証する必要がある。これまで調べてきた性分化関連遺伝子群の性特異的発現のタイミングをより厳密に調べ、また、人為的に性転換を誘導した場合の上記性分化関連遺伝子の発現変動を調べた。加えて、新たに性特異的発現変化を示す遺伝子としてfshr発現のタイミングも厳密に調べた。さらに、生殖腺の性特異的遺伝子発現が脳下垂体ホルモンの性特異的発現によって誘導されている可能性も勘案し、脳下垂体ホルモン発現のタイミングの性差を厳密に調べた。その結果、脳下垂体ホルモン発現の性差は生殖腺よりも遅れること、生殖腺における遺伝子発現の性差は孵化後4~5日目から生じることが解った。よって、この時期の未分化生殖腺を検定サンプルとして用いることが適当であると判断された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の目的は、魚類の性連鎖DNA配列を同定する方法の確立にある。そのアプローチとしてはまず、遺伝的雄と遺伝的雌のゲノムの間でサブトラクションを行なうことでゲノムの複雑度を低下させた後にAFLP法または次世代シーケンサー解析によって性連鎖配列の検索を行うこととしている。別のアプローチとしては、発現遺伝子の解析から最初に現れる性特異的発現遺伝子群を特定し、それらの中に性連鎖遺伝子がないかを探索する方法を試行している。 ティラピア超雄(YY)と通常雌(XX)ゲノムの間でサブトラクションしたライブラリーをAFLP法で解析した結果得られた性連鎖DNA配列候補は親世代では完全に性に一致した。これら配列の子世代での検定を行うため、超雄と通常雌をかけあわせた子孫の表現型性が判断できるまで3~4ヶ月飼育する必要があった。その後、生殖腺の性は組織学的に判別し、またゲノムPCRによって候補配列の有無を確認したが、6割程度しか一致が見られなかった。子世代の作製から、組織学的性判別、ゲノムPCRによる検定の一連の作業に想定より時間が必要であった。AFLP法には多大な労力と時間が必要なため、今後は次世代シーケンサーによる検定に集中する。 海外の研究機関の報告から、性決定期の遺伝的雄と雌の未分化生殖腺を次世代シーケンサーで発現遺伝子解析することで性特異的DNA配列の同定に成功した事例を確認したため、ティラピアでも同様の方法を検討した。まず、ティラピア性決定のタイミングを生殖腺と脳下垂体における遺伝子発現の雌雄差を厳密に調べることで、最初の遺伝子発現の性差は孵化後4~5日目の生殖腺であると推定した。昨年度は、ティラピア性決定のタイミングを厳密に調べるために時間を要した。今後は、この時期の遺伝的雄および雌の未分化生殖腺を可能な限り純粋に摘出し、サンプルとして用いる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに作製を進めているティラピア超雄(YY)と通常雌(XX)のゲノム間におけるサブトラクションライブラリーを完成させる。完成したサブトラクションライブラリーは次世代シーケンサーで解析し、サブトラクションライブラリーに存在し、XXには認められない配列を検索する。平行して、孵化後4,5日目の遺伝的雄および雌の未分化生殖腺からcDNAライブラリーを作製する。各サンプルから得られるRNAは極く微量であるため、cDNAの平行増幅方法を検討する。雄雌サンプル間において平行してcDNAが増幅されるかは、これまで特定した中で最も早期に遺伝子発現の性差を示すfoxl2、cyp19a1aおよびgsdf遺伝子を指標にして検定する。雌雄サンプル間で平行増幅が確認されたサンプルは次年度の次世代シーケンサー解析に用いる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究全体の遅れにより平成23年度分の研究費に残額を生じているが、この残額についてはゲノムサブトラクションライブラリー作製およびcDNA増幅ライブラリー作製にかかる物品費(各種分子生物学的酵素やプライマーなど)として30万円程度の使用を計画している。他に、ティラピア飼育にかかる水槽関連経費として6万円程度を予定している。
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