2011 Fiscal Year Research-status Report
次世代光発酵技術の開発に向けた新規海産ラン藻‐ファージ感染系ライブラリーの構築
Project/Area Number |
23658160
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉田 天士 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80305490)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
左子 芳彦 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (60153970)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 海産ラン藻 / シアノファージ / 光発酵 / 窒素固定 / プロモーター |
Research Abstract |
本研究は、シアノファージ(ラン藻ウイルス)の宿主内での高い遺伝子発現をもたらす分子メカニズムを応用した効率的な光合成による有用物質生産系(光発酵系)の確立を最終目標とし、新規窒素固定型単細胞性海産ラン藻ならびその感染性ファージを分離し、その遺伝的・性状解析を進めて、新規な海洋ラン藻ファージ感染系のライブラリーを構築する。23年度の成果は以下のとおりである。(1)ラン藻の分離:福井県小浜市、兵庫県洲本市および京都府網野町の海岸にて採取した海水を、海産ラン藻培地 ASP2 培地より窒素源を除いたASP2-N 培地を用いた集積培養に供し、計13株のラン藻株を樹立した。一方、兵庫県香住町沖合試料から抽出したDNAに対してラン藻特異的な16SrDNAを指標としたクローンライブラリー解析を行ったが、窒素固定ラン藻に由来する配列は見出せず、沿岸から海浜域が本ラン藻類の分離地として適していると考えられた。(2)ラン藻の性状:(1)で樹立した株のうち12株は糸状性のラン藻で、目的とする単細胞性ラン藻は2株であった。このうち、1株はシアノテーケ属ラン藻に近縁であり、ニトロゲナーゼ(窒素固定酵素)遺伝子を有していた。もうひと株については現在解析を進めている。また、緑藻と共生していると考えられるシアノテーケ属に近縁な1株も樹立することに成功した。(3)ファージの分離:福井県小浜市の試料よりシアノテーケ分離株を溶菌する画分を得た。性状を解析したところ、ファージではなく細菌による溶菌であることが明らかとなった。また、データベースに公開されているシアノテーケゲノムから、CRISPRスペーサーと呼ばれる過去に感染したウイルス部分配列を用いて、公表されているメタゲノムデータを検索したが、シアノテーケウイルスの推察される配列は見出せなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度はラン藻の分離条件の検討を行い、窒素欠乏培地を用いることで多くの海洋から窒素固定ラン藻を集積させることができた。このように窒素固定ラン藻のライブラリー化に向けた基礎は構築した。ただし、標的とする単細胞性ラン藻は少なく、多くが糸状性ラン藻であった。将来的な遺伝子操作などを勘案すると、単細胞性ラン藻を多く分離することが望ましく、更なる検討を要すると考えられた。これを踏まえ、ラン藻特異的16SrDNAならびに窒素固定酵素遺伝子を標的としたPCR法を用いた、採取試料に対して効率的に窒素固定ラン藻の分布状況を把握する手法を確立した。本手法を用いて沿岸から100km以上離れた貧栄養海域での窒素固定ラン藻の分布を調べたところ、その密度は検出限界以下であった。このように窒素固定生物を効率的に分離するための試料採取場所をある程度限定することができた。 一方、窒素固定ラン藻感染性ファージについて、分離ラン藻株を用いたスクリーニングを行ったが見出すまでには至っていない。シアノファージは海洋微生物分野でも極めて注目が高い分野であるが、海産窒素固定ラン藻に関するファージはいまだ成功事例はなく、さらに多くの検討が必要となる。
|
Strategy for Future Research Activity |
23年度の成果を踏まえ、新規窒素固定型単細胞性海産ラン藻ならびその感染性ファージの分離を試みる。(1)ラン藻の分離:24年度も有用ラン藻の分離を引き続き行う。特に、標的とするラン藻が比較的多いことが示唆された富栄養な瀬戸内海の海域を重点的にサンプリング回数を増やす。また、開発したラン藻特異的16SrDNAならびに窒素固定酵素遺伝子を標的としたPCR法を用いて、有用ラン藻の分布状況の把握も進める。8月までには50株程度のラン藻株の分離ならびに性状解析を完了させる。(2)ファージの性状解析:分離した窒素固定ラン藻を宿主とし、できる限り多くの試料を感染させ感染性ファージを探索する。分離したファージのネガティヴ染色像を観察して、その形態性状を明らかにする。確立したラン藻株に対して、交叉感染試験を行い、ファージの宿主域を調べる。また得られたファージのライブラリー化のための安定な保存方法を検討する。一段増殖実験により、バーストサイズ(感染により一つの細胞から新たなに放出されるファージ数)・潜伏期間を明らかとする。(3)ファージのゲノム性状:ファージの有する遺伝物質(RNA・DNA、環状・線状など)を調べ、ゲノムサイズをパルスフィールドゲル電気泳動装置(設置済み)を用いて明らかとする。さらに、既存のファージ頭部タンパク質に特異的なプライマーを用いて、ファージの系統学的位置の解明も試みる。より詳細なファージの遺伝的性状解析にはゲノム解析が必須であるが、本申請予算内では不可能であるため、本課題では一部配列の解読にとどめる。(4)ウイルス感染履歴を用いたファージ探索:分離したラン藻株に対してウイルス感染履歴(CRISPRスペーサー)を解読し、公表されているメタゲノムに対して新規ウイルス配列を探索する。申請時には予定していなかったが、ウイルス探索に極めて有用であることを明らかとしたため、今年度追加する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用する研究費(23年度執行残額)については、主として海水試料採取のための旅費での使用を予定している。当該研究費は、条件設定のため研究室内での実験が主となり、当初予定していたサンプリングを行えなかったことにより生じたからである。次年度は予算申請時から使用計画の大きな変更を予定していない。主として分子生物学用試薬に用いる物品費ならびに成果報告のための旅費として使用する。また、次年度は分離したラン藻株のウイルス感染履歴を解読する実験を追加する予定であるが、すでに計上している物品費内で行うことが可能である。
|
Research Products
(2 results)