2011 Fiscal Year Research-status Report
水温の空間分布の決定要因分析をふまえた稲の高温登熟障害回避に資する灌漑手法の開発
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23658195
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
坂田 賢 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究所・農地基盤工学研究領域, 任期付研究員 (00584327)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 高温登熟障害 / 水温分布 / 水管理 / 夜間灌漑 / 気候変動 |
Research Abstract |
1.調査概要 2011年度は、調査地区に九頭竜川右岸地域を選定し、取水源、パイプライン及び開水路からなる幹線用水路、並びに、圃場において灌漑期間中の水温を観測した。また、出穂後に昼間または夜間のみの灌漑を行う圃場を設け、用水量、湛水深、水温及び地温を計測した。2-1 結果1:幹線用水路の水温変化 幹線水路がパイプラインおよび開水路を有する灌漑地区において、それぞれの幹線水路内で水温変化を計測し、経時変化を分析した。その結果、取水堰から各地点に用水が到達する時間を考慮して、取水堰地点と各地点の水温差を求めたところ、取水堰地点の水温に比べて、パイプライン中間地点およびパイプライン末端地点は、それぞれ0.01℃±0.34℃(平均値±標準誤差)、0.06℃±1.38℃高くなった。開水路では、夜間はパイプライン水温とほとんど同じであったが、昼は周辺環境の影響を受けて水温が上昇する傾向が示された。2-2 結果2:出穂後における圃場の水温変化 パイプライン地区と開水路地区において、それぞれ昼間(6時~18時)のみ灌漑を行った圃場と、夜間(18時~翌6時)のみ灌漑を行った圃場において、取水温の平均値を比較した。その結果、パイプライン地区では昼と夜の水温差はほとんどみられない。ただし、夜の方が昼に比べて高い場合が多い。これは、圃場近傍の幹線水路水温が夜間の方が高いことが影響している。一方、開水路区では昼の方が夜に比べて水温が高く水温差も大きい。また、パイプライン地区と開水路地区を比べると、後者の方が昼夜ともに水温が高い。3.2011年度成果の意義・重要性 稲の高温登熟障害を抑制するためには、低い温度の用水を灌漑することが有効であると考えられる。今年度調査から圃場に灌漑された用水の温度変化を時系列で捉えることができた。今後の最適な灌漑時間帯を提示する上で有効な知見が得られたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画では「調査地区は、受益面積の大きい灌漑地区の中から、低平地、水量データが整備されている地区を選定する。」とし、2011年度において「広域にわたり用水系統が明確になっている低平地の地区として、福井県坂井市にある九頭竜川下流地区を選定した。 「観測は、地区に用水を取り入れる地点(取水地点)、用水路系統の分岐点、幹線用水路に近接した圃場および末端用水路に近接した圃場に水温計を設置する。」とした研究実施計画に対して、取水地点と幹線用水路のパイプラインおよび開水路における水温観測を実施し、圃場における観測として、各取水口に三角堰を設置して流量および水温の測定を行った。また、圃場周辺の降雨量および気温の測定を実施した。さらに、地元の研究機関と協力して湛水深、地表面温度、葉色、収量および品質調査を実施した。 「観測終了後に、観測期間の気象条件に応じて発生する水温分布について整理する。また、取水地点の水温がどの程度の時間遅れを伴って、下流部に伝播するかを分析し、取水地点における寄与度について明らかにする。」との研究実施計画に対して、収集した幹線用水路のデータに基づいて、水温の時間遅れについて分析し、取水口から各観測地点までの伝播時間を求め、取水口における温度変化と各観測地点における温度変化の傾向を明らかにした。 分析結果については、地元の営農者に報告を行い、結果に対する意見または感想についての情報交換を行い、2012年度調査に向けての課題やより分析が求められる項目についての検討を行った。上記については、研究実施計画に記載した「分析後に、観測データの解析結果を用水管理者に報告することで、現場感覚に基づいた営農者からの用水供給に対する要望と、解析で得られた用水の配分状況等との認識の相違点について明らかにし、解析結果を今後の用水管理に活かす方法についての情報を得る」ことに相当する。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度は、以下に示す3点に重点を置いて研究を推進することを計画している。1.広域の水路網の水温分布および水温伝達過程の把握:2011年度の結果から水路に沿った広域の水温分布について、概要を明らかにすることができたと考えている。2012年度には地域全体の面的な分布を捉えるために、特徴的な水温差が生じると想定される、パイプライン水路と開水路の圃場に近い地点での観測を追加する。これにより、地区全体の水源となる河川取水口から幹線用水路、末端水路を経由して各圃場に到達するまでの過程の水温の状態を明らかにする。さらに、各水路を流下する過程で伝播する水温を分析することによって、水路形態による水温形成過程の相違について明らかにする。2.圃場における計測結果に基づいた効果的な灌漑手法の提示:2011年度に引き続き、地元の研究機関等と連携しながら、圃場での取水量等の計測を実施する。また、2011年度の結果を踏まえて、2012年度では営農者による水管理を変更し、夜間の灌漑を強化することによる地温、水温、周辺気温等の変化および収量・品質等への影響について明らかにする。これらの結果から、高温登熟障害を抑制するための水管理手法を提示する。3.研究成果の公表:2011年度に得られた成果について、単年度試験結果のみで論考が可能な内容については、2012年度前半にとりまとめを行い、国内および海外の学会等で発表を行う。また、2011年度および2012年度の観測結果を合わせて、2012年度後半にとりまとめを行い、原著論文として投稿する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2011年度の調査結果を国際会議で報告を行うこと、および、地元営農者、研究機関等との連携をより緊密に取ることを目的に、交付申請時より旅費に要する費用を増額させることを計画している。次年度使用額760,435円はこれらを推進するために活用することを計画しており、次年度に請求する研究費と合わせて研究計画遂行のために使用する。
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