2011 Fiscal Year Research-status Report
哺乳類のメス生殖細胞におけるpiRNA/PIWIの機能解析を目指した挑戦的研究
Project/Area Number |
23658221
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
内藤 邦彦 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (20188858)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2012-03-31
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Keywords | 応用動物 / 畜産学 / 卵成熟 / piRNA / PIWI |
Research Abstract |
本研究では、我々の遺伝情報を後代へ伝える生殖細胞のゲノムが、いかにして寄生遺伝子レトロトランスポゾン(TE)の脅威を免れているかという観点から、オス生殖細の維持に必須であるPIWIのTE抑制機能が、卵でも機能している可能性をブタ卵を用いて探った。マウス卵ではPIWIの多くが存在しないが、RNA解析からブタ卵ではPIWIL1とPIWIL2の2種のmRNAの存在を確認し、予備実験からPIWIL2の抑制が卵の減数分裂を早めるとの示唆を得ていた。そこでこの点を先ず確認してこの結果を確定すると共に、PIWIL1の遺伝子クローニング、発現抑制ベクター構築を行い、PIWIL1の抑制でも卵の減数分裂が正常では起こり得ない早い時間に開始することを見出した。これらの結果から、メスでもPIWIが重要な機能を果たすことを示唆できた。加えてmiRNAや内在性siRNAを介したRNAサイレンシング機構に働くdicerについても遺伝子クローニング、発現抑制を行った結果、PIWIと同様に減数分裂が早期に開始することを明らかとし、これらは互いの機能を補償し合っている可能性も示唆した。以上は減数分裂の開始を促す培養系を用いた実験結果であるが、生体内で減数分裂を停止している状態をin vitroで再現する培養系を用いたところ、PIWIやdicerの抑制で減数分裂が開始してしまうことが示された。このことはTEの抑制が生理的に哺乳類卵の卵巣内での減数分裂停止に寄与していることを示唆しており興味深い。減数分裂の開始は成熟/M期促進因子(MPF)の活性に依存するためMPFサブユニットや、この制御因子の変動を調べることを予定していたが実験の遅れから、これらの解析は未だ十分には進んでいない。しかし、現在までにPIWIやdicerの抑制でCyclin Bの合成が早まるとの予備的な結果を得ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、2ヶ月で修了すると予定していた、PIWIおよびdicerのクローニングとベクター構築のうち、dicerについては問題なく修了したが、PIWIL1、PIWIL2の全長配列およびFlagタグ付きのベクター構築など一部の実験がうまく進まずに時間がかかり、それに伴いその後の解析のスタートが約1.5ヶ月予定より遅くなった。そのため本来は平成23年度で終了する予定の実験が平成24年度へずれ込む結果となり、科研費の期間延長を余儀なくされた。そこで、当初の予定であったこれらの遺伝子の全長配列のクローニングは後回しとし、得られている部分配列を用いた発現抑制実験を中心に研究を進め、研究実績の概要に記したとおり、これらの解析を通して一定の結果を得ることは出来たと考えている。しかし上記の通り、PIWIやdicerの作用機序にまでは迫ることが出来ておらず、本年度の研究目的の達成度の評価としては(3)やや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、昨年やり残しているPIWIとdicerの作用機序について解析する。具体的には次の2点について検討する予定である。すなわち、(1)PIWIやdicerが実際にTEを抑制することを通して作用しているのか、あるいは全く別の機能を介しているかを、TEの一種であるLTR-TEやLINE1等の配列に対するRT-PCRにより検討すること、(2) PIWIとdicerの抑制によりMPFサブユニットのCyclin B合成時期が早まるという予備的な結果を既に得ているので、この点を確認すると共に、さらに当研究室ではブタ卵の減数分裂過程におけるCyclin B合成にRNA結合因子のCPEBと これをリン酸化するAurora Aが関与すること、また最近、別のRNA結合因子であるMusashiが関与する可能性を得ているので、PIWIとdicerの機能がこれらを介しているかをウエスタンブロットや免疫染色により解析する。以上の実験を本年度の上半期中に終了する計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の実験を遂行するための研究材料となるブタ卵は屠場(東京芝浦臓器:品川)より購入した卵巣(1個280円)より採取する。本実験には1000個程度(280,000円)を使用すると見込んでいる。培養機材および解析のための材料費としてブタ卵母細胞の培養、RT-PCR、ウエスタンブロット、免疫染色、酵素活性測定の試薬が、またキットとしてRNA抽出、アンチセンスRNAのin vitro合成、ウエスタンブロットのバンド検出などが必要になる。さらに、ウエスタンブロット、免疫染色のための抗体として、減数分裂の状態を調べるための細胞分裂関連因子、およびタグに用いるFLAGに対する免疫ブロット用、免疫染色用の一次抗体、および検出用の二次抗体が必要である。プラスチック器具はチップ、各種チューブ、培養シャーレ、ろ過滅菌フィルター、注射筒、ポリ手袋等で、多くは使い捨てとせざるを得ず、大量に消費する。これらの物品費として200,910円程度を使用する。昨年度得られた結果に本年度の結果を加えて学術誌に公表することを考えており、投稿料として約50,000円を予定している。以上を合計し残金の530,910円を使用する予定である。
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Research Products
(1 results)