2011 Fiscal Year Research-status Report
線維化の増悪に係る「上皮-間葉転換」の形成機序の解明と病理学的・臨床学的意義
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23658265
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
山手 丈至 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (50150115)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桑村 充 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (20244668)
竹中 重雄 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (10280067)
井澤 武史 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (20580369)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | EMT / 線維化腎 / 遡及現象 / ラット / 筋線維芽細胞 / 膵線維化 / 胆管上皮 / Thy-1 |
Research Abstract |
難治性線維化(肝硬変/胆管線維症、萎縮腎、膵線維化、悪性肉芽組織など)は進行すると組織の機能障害を導く。上皮細胞の異常分化現象「上皮-間葉転換(EMT)」は細胞外基質を過剰に産生する筋線維芽細胞を誘導し、線維化の増悪に係る。しかし、その病理発生機序と臨床学的意義の全貌は解明されていない。本研究では、肝、腎、膵、皮膚のラット線維化モデルを用いてEMTの形成機序を免疫組織化学的・分子病理学的に解明するとともに、EMTは上皮の遡及現象と捉えていることから、幹細胞抗体を用いてその起源細胞を体性幹細胞の観点から追究する。本年度は、以下の点について解析した。 EMTは上皮系細胞が脱分化し、その後筋線維芽細胞に異常分化する現象と捉えている。ラットの胎子・新生子の腎組織を用いて上皮系と間葉系マーカーの発現を解析した。特に、Thy-1の発現に焦点を当てて解析した。Thy-1は線維芽細胞に発現する免疫グロブリンスーパーファミリーの一つで筋線維芽細胞の分化に関わる。腎の発生過程におけるThy-1と上皮系マーカーを発現する細胞との係わりを免疫組織化学染色により解析したところ、尿細管上皮細胞への分化能を有する後腎芽体細胞とその周囲の未分化間葉系細胞にThy-1発現がみられた。しかし、分化した尿細管上皮にはThy-1発現はみられなかった。また、成体の正常腎ではThy-1は血管周囲の周皮細胞に発現し、さらに傷害後の線維化腎では一部の筋線維芽細胞にThy-1発現が見られた。筋線維芽細胞の主要マーカーであるα-平滑筋アクチンとThy-1との共発現細胞はみられなかった。以上より、Thy-1は筋線維芽細胞の前駆細胞に発現し、発生学的にその細胞は後腎芽体細胞と関連する可能性が示唆された。また、ラットの胆管上皮におけるEMTと、犬と猫の剖検から得た膵線維化の病態をEMTの観点から解析している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の項目の研究を行うことを計画した。1.組織発生過程におけるEMTの起源細胞の解明:EMTは上皮系細胞が脱分化(遡及現象)し、その後筋線維芽細胞に異常分化する現象と捉えている。ラット胎子・新生子の肝と腎組織を用いて上皮系と間葉系マーカーの発現を解析する。1-1.腎発生過程におけるEMTとThy-1発現細胞との関連:Thy-1は間質細胞に発現する免疫グロブリンスーパーファミリーの一つで筋線維芽細胞の分化に関わる。腎の発生過程におけるThy-1と上皮系マーカーを発現する細胞との係わりを免疫組織化学染色により解析する。後腎芽体細胞とThy-1発現細胞、そしてEMTとの関わりが解明できる。1-2.肝の発生過程における解析:上皮系と間葉系マーカーの発現動態を胎子の胆管上皮に着目して解析するとともに、Thy-1発現との係わりも合せて解析する。胆管上皮のEMTの起源細胞が発生学的に解明できる。2.犬・猫の病態解析:犬と猫の生検・剖検材料から肝線維化、腎線維化、膵線維化、皮膚の線維化病変を収集し、EMTの解析を行う。EMTの臓器間と動物間の普遍性を証明する。この課題は3年間継続して行う。 「1-1」については完了した。「1-2」については、動物実験が終了し、現在解析中である。「2」は3年間の研究期間における継続的な解析項目である。よって、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の遂行は、上皮-間葉転換(EMT)を新たな病態として確立するとともに、難治性線維化の治療法の開発に資することを目的としている。また、「EMTの幹細胞起源」の証明は、再生医学の基盤研究となると考える。本課題では以下の作業仮設を立て、それを明らかにすることを基本方針として進めている。1. 臓器間・胚葉間の普遍性の証明:EMTは尿細管上皮(中胚葉)のみならず、肝内胆管上皮(内胚葉)と毛嚢上皮(外胚葉)にも生じる可能性がある。これら部位の線維化モデルを用いてEMTを解析する。2. 体性幹細胞起源:EMTの起源細胞を幹細胞抗体A3を用いて、個体発生過程と線維化モデルで多角的に解析する。3. 細胞内シグナル機序の解明:EMTを誘導する増殖あるいは抑制因子をSmadとWntシグナルに注目して解明する。4. EMT理論の構築:新たな病態としての「EMT」の形成機序を解明し、線維化の臨床学的な意義と治療法を探索する。 3年間の研究期間、これらの目標に沿って研究を行う。すでに1年目が終了し、順調に進展している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
以下の項目について研究を展開する予定である。よって、主として動物購入費と病理組織学的検査に必要な物品費が費目の中心を占める。また、成果がでつつあるので国際学会で発表を予定する。1.組織発生過程におけるEMTの起源細胞の解明:EMTは上皮系細胞が脱分化(遡及現象)し、その後筋線維芽細胞に異常分化する現象と捉えている。特に、上皮系と間葉系マーカーの発現動態を胎子の胆管上皮に着目して解析するとともに、Thy-1発現との係わりも合せて解析する。胆管上皮のEMTの起源細胞が発生学的に解明できる。2.胆管傷害後のEMT現象の解析:また、 胆管傷害後に肝内胆管上皮にEMTが生じる可能性があることから、α-Naphthylisothiocyanateによる胆管線維症を作製しその修復過程で生じる線維化病変を用いてEMTの病態を免疫組織化学的に解析する。3.犬・猫の病態解析:犬と猫の生検・剖検材料から肝線維化、腎線維化、膵線維化、皮膚の線維化病変を収集し、EMTの解析を行う。EMTの臓器間と動物間の普遍性を証明する。この課題は3年間継続して行う。
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