2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23658285
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神崎 亮平 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (40221907)
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Keywords | 昆虫 / 生体材料 / バイオセンサ / 嗅覚受容体 / マイクロ流路チップ |
Research Abstract |
既存の工学技術に基づく匂いセンサはリアルタイム性及び検出感度・識別の点で課題がある。一方昆虫は、触角で機能する嗅覚受容体によって環境中の様々な匂い物質を高感度に検出する。本研究は、遺伝子工学技術及び工学技術を用いてキイロショウジョウバエの嗅覚受容体をマイクロ流路チップ上にアレイ化することで、高感度かつリアルタイムに様々な匂い物質を検出できるセンサの構築を目的とする。平成24年度は、嗅覚受容体をアレイ化した匂いセンサの構築を目指して、①匂い検出素子の構築、②センサチップの構築、③匂いセンサの機能評価を実施した。 ①匂い検出素子の構築 キイロショウジョウバエ触角で機能する全32種類の一般臭受容体うち29種類について、カルシウム感受性蛍光タンパク質とともにSf21細胞に遺伝子導入し、一般臭受容体を発現する細胞系統を樹立した。光学イメージングの結果、22種類の細胞系統がリガンドである一般臭に蛍光応答を示すことが分かった。以上により、蛍光強度変化量として一般臭を検出できる匂い検出素子22種類の構築を完了した。 一方で、RT-PCRによる発現解析の結果、各細胞系統で受容体遺伝子の発現量に差異がみられ、蛍光応答に影響を及ぼす可能性が示唆された。現在応答が得られていないものを含む全細胞系統について遺伝子発現解析を実施し、S/N良く蛍光応答を示す細胞系統の抽出を進めている。 ②センサチップの構築 作製したマイクロ流路チップは、少なくとも1週間にわたり細胞を培養でき、蛍光顕微鏡下で蛍光を観察し続けられることが分かった。また、本チップと1/6型撮像素子のCMOSイメージセンサを用いて細胞の蛍光応答の検出方法を検討した。 ③匂いセンサの機能評価 作製したチップ中に受容体発現細胞系統を導入し匂い応答を測定した結果、培養皿で取得した細胞の蛍光強度変化と同程度の蛍光応答がチップ中で検出できることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
キイロショウジョウバエの嗅覚受容体を発現させた細胞系統をアレイ化した匂いセンサを開発するため、平成24年度は複数種類の匂い検出素子の構築及び匂いセンサチップの構築を目指して、①匂い検出素子の構築、②センサチップの構築、③匂いセンサの機能評価を実施した。①匂い検出素子の構築では、細胞系統ごとの受容体遺伝子の発現量が匂い応答に影響を及ぼす可能性を示唆したが、結果的に一般臭に対して蛍光強度変化を示す22種類もの細胞系統の樹立に成功しており、その成果も国際学会及び国内学会で発表した。そのため、①の項目については概ね当初の計画通りに進展していると判断した。 ②センサチップの構築及び、③匂いセンサの機能評価についてはSf21細胞を導入できるマイクロ流路チップを設計・作製し、チップ中でのSf21細胞の培養条件の決定及び受容体発現細胞系統から匂い応答の検出まで達成した。また、CMOSイメージセンサを用いてチップに導入した蛍光ビーズの蛍光を検出できることまでを示した。しかし、現在CMOSイメージセンサによる細胞系統の応答測定を検討している段階であることから、②③の項目についてはやや遅れていると判断した。 以上3項目を総合的に評価して、本研究の現在までの達成度を「(3)やや遅れている。」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、平成24年度に引き続き、キイロショウジョウバエの嗅覚受容体を発現させた細胞系統を複数種類アレイ化した匂いセンサの開発を目指す。具体的には、①匂い検出素子の構築で、32種類の一般臭受容体のうち、残りの10種類の受容体について遺伝子導入した細胞系統の匂い物質や関連物質に対する応答を測定する。加えて、樹立した全細胞系統についてRT-PCRによる受容体遺伝子の発現解析を実施し、受容体の発現量が多く、匂い物質に対しS/N良く蛍光応答を示す細胞系統を抽出する。抽出した細胞系統は匂い応答特性および濃度応答を決定することで、匂い検出素子とする。②センサチップの構築では、平成24年度までに作製したマイクロ流路チップからCMOSイメージセンサを用いて細胞応答の検出方法を決定する。複数種類の細胞系統をアレイ化できるチップを作製し、各ウェルから細胞応答を測定できることを確認する。作製したチップはCMOSイメージセンサと組み合わせてセンサチップを構築する。そして、③匂いセンサの機能評価において、複数種類の細胞系統をアレイ化したセンサチップから、匂い刺激に対する応答パターンを可視化することで、匂いセンサを完成させる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、樹立した22種類の細胞系統の培養・維持に必要となる培地類や試薬類に加え、これら細胞系統からの応答測定のための光学イメージングにかかる試薬類に主に研究費を使用する。また、平成25年度では、新たにRT-PCRによる各細胞系統の遺伝子発現解析を実施する。そのため、各細胞系統からRNAの抽出及びRT-PCRの実施に必要となる試薬類にも研究費を使用する予定である。 また、マイクロ流路チップとCMOSイメージセンサを組み合わせたセンサチップの開発を平成24年度に引き続き実施するため、センサチップ開発にかかる部品類に研究費を使用する。なお、平成25年度に実施する研究についても当該研究設備で実施可能であるため、備品等の購入予定はない。 さらに、本研究の成果を国際学会で発表することを予定しているため、旅費・宿泊費としても使用する予定である。
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